エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
「ですから! 私はマタハラなんて。どうか私の話も聞いてください」

 美月は声を荒らげるが、彼は面倒くさそうに深いため息をつくだけだ。

「彼女、本間さんがうちの株主でもある東西鉄道の専務の娘だって話、羽山さんも知ってるでしょ。うまくやってくれないとさぁ……そういうのも含めて〝仕事〟なんだから」

 美月は思いきり眉をひそめた。

(権力者の娘に嫌われないようにするのが、仕事?)

 自分が憧れていたホテリエの仕事はそんなくだらないものじゃなかったはず。長年の夢がこんな形で砕かれるなんて、どう考えても納得できない。唇を噛んで無言の抵抗をする美月を無視して、話は終わりだとばかりに加賀谷は席を立った。

「部長! 待ってください」
「人事異動は会社員なら当然のこと。嫌ならやめたらどうだ?」

 そのひと言で、プツンと糸が切れてしまった。彼は美月がなにを言ったところで〝東西鉄道専務の娘〟である由奈の味方をするのだろう。

「――承知しました。では、退職させていただきます」

 職場と上司への失望から、そんな台詞が口をついて出た。

 早まった発言をした自覚はあるけれど……もうここで誇りを持って働く自分を想像できなくなってしまった。

 すでに決まっているひと月先のシフトまでは勤務するけれど、その後は有給消化をして七月末付けで退職。そう話をまとめ、会議室をあとした。
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