エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
 鬱々とした気分になんとか蓋をして、仕事だけは笑顔でこなした。残業をようやく片づけ終わった夜八時、着替えを済ませた美月はホテルの従業員通用口を出た。

 昼間は雨が降っていたけれど今はあがっている。湿気をたっぷりと含んだ、ぬるい風が美月の頬を撫でた。

「はぁ」

 思わず深いため息をこぼしたところで、誰かが自分に続いて通用口から出てきた。

「あっ」

 パステルブルーのスカートを揺らして歩いてくるのは、正直、今の美月が一番会いたくない人物だった。

(本間さん……彼女も今、あがりかぁ)

 由奈も美月の存在に気づいたようで、ぱちりと目が合う。

「おつかれさまで~す」

 悪気のない笑顔を向けられ、美月はさすがに頬を引きつらせた。

「おつかれさま」
「聞きましたよ。退職されるそうですね」

 まるで他人事のような言葉。どういう神経をしているのだろう。

(私、この子にそんなにひどいことをした?)

「本間さん。どうして、あんなこと言ったの? 私が本当にマタハラしたって思っているわけじゃないんでしょう」

 冷静さを失い、思わず強い口調で問いかけてしまった。

 彼女の、苺ミルクみたいな色の唇がクスッと楽しそうに緩められる。

「え~。だってぇ、夫の職場に元カノがいるなんて許せないですもん。私が寿退社したあと、ふたりがこっそり仲良くしたりしないか、心配だなぁって」
「そんな自己中心的な理由で……」
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