エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
 呆れ果てて、言葉が続かない。自分のキャリアがこんなふうにつぶされてしまうなんて、想像もしていなかった。

「大丈夫ですよ~。私と違って、羽山さんは優秀なんですから。転職活動がんばってくださいね。それじゃ!」

 無邪気な笑顔で手を振る彼女を、美月は唖然として見送った。

 怒りを通りこしてむなしさだけがつのる。ただただ疲れてしまって、ものすごく足が重く感じた。
 
 省吾との思い出も残る自宅マンションにまっすぐ帰る気にはとてもなれず、ふらりとバーに立ち寄る。

(明日は休みだし。今夜くらい、飲んでもいいよね)

 自宅の最寄りである豊洲駅近くの、こじんまりしたバー。飲食店が多く入居する雑居ビルの三階にあって、高級というわけでもないが落ち着いた大人向けの店だった。

 居酒屋ではなくバーに入るのなんて初めてで少し緊張したけれど、マスターもほかの客も特段気にした様子はない。考えてみたら、帝都グランデホテルのバーにも女性ひとり客は結構多い。今どきは珍しいものでもないのだろう。

 しばらくヤケ酒をあおっていたら、突然火災報知機が鳴り出した。

 明日からきちんと考えるから、今夜だけは現実逃避してしまいたい。美月の望みはそれだけだったのに……まさかこの世で一番恐ろしいと思っている火事に巻き込まれるなんて想定外もいいところだった。

 高く燃えあがる炎を見た記憶はあるが、その後のことはひどく曖昧で……。
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