空飛ぶ消防士の雇われ妻になりまして~3か月限定⁉の蜜甘婚~
 ホテル内での火災は非常に怖いものなので、防災訓練は結構な頻度で行っている。だが人間は非常事態に弱いもの。いざ直面すると、とっさには動けない。それは美月だけでなく、マスターもほかの客も同じだった。

「えぇ~。どうせ誤報でしょう?」
「確認してきます。向かいの焼き肉屋は若いお客さんが多いからなぁ。きっと酔っぱらいが……」

 店の外に出るマスターの動きも、のんびりしたもの。きっと大丈夫、どうせイタズラだ。そんな空気に店内は包まれていた。

 が、美月は即座に動き出す。ホテリエとして教育を受けているから……という理由もあるが、火事をなによりも恐れているからだ。
 美月はトラウマレベルに火が苦手で、花火大会なんて絶対に観たくないし、IHコンロでないと料理もしたくないくらいだから。

(誤報かどうかは、逃げてから確認すればいいもの)

 悪酔いも一気に覚めた気がする。美月はマスターと同時に店を出た。

 マスターの想像は半分正解だった。ベルの発信源は向かいの焼き肉屋。しかし……。

「邪魔だ。どけっ」
「逃げろ、逃げろ」

 バーより大勢の客が入っていたと思われる店から、先を争うようにして客が逃げ出してきていた。かすかにだが、焦げくさいような匂いもする。

「え、え? 本当に火事なの? こりゃ大変だ」

 マスターは慌てて店に引き返していった。自分のバーの客に避難を呼びかけるためだろう。
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