エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
 きっと、ゆうべの火事の件を指しているのだろう。でもなんとなく……美月がドン底にいることを彼は見抜いているような気がした。

 高級マンションらしいシックで広々としたエントランスを抜けると、まぶしいほどの陽光がふたりに降り注いだ。

「最近雨続きだったから、久しぶりの晴天だね!」

 爽やかな青空を仰いで、美月は明るい声を出す。

(今日、晴れてくれてよかったな)

 天気がいいというだけで、前向きな気持ちになれる気がする。終わった恋は忘れて、新しい未来を見つけるのだ。

(ドン底じゃなくて……ここがスタート。そう考えよう)

「そうだな。今年は梅雨明けが早いらしいから、すぐに夏が来るぞ」

 晴馬の言葉どおり、ふわり吹く風は熱気をはらんでいて、夏の匂いを運んできた。
 海を臨む遊歩道をふたりで並んで歩く。

「しかし、こんなに近くに住んでいたとはな。世間は狭い」
「ね。東京で再会するとは思ってもみなかったよ」

 ふたりの通っていた小学校は横浜にある。美月は小学校三年生のときにカナダに引っ越しをして、そのままずっと向こうで過ごした。就職は日本でと考えていたので、大学入学を機にひとりで帰国したのだ。大学は関西のほうだったから、東京に来たのは就職するとき。晴馬のほうは大学入学から東京暮らしだそうだ。

「同じ海の近くの街でも、この辺りと横浜はまた違うよな」
< 31 / 180 >

この作品をシェア

pagetop