エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
 由奈との式をここでするのだろう。ホテリエの場合、勤務先で結婚式をあげるのはよくあることだ。割引もあるし、なによりよそであげるとは言いづらい空気があるから。

 ただ、この話を美月にする神経は理解できない。

「そうなんですね。本間さんは?」

 ブライダルサロンならふたりで来ているだろうに、彼の隣に由奈の姿はなかった。

「化粧室。混んでるのかもな~」
「そうですか。じゃ、私はこれで。おつかれさまでした、只野さん」

 彼ののろけ話を聞くほど暇ではない。美月は軽く頭をさげ、歩き出す。ところが、省吾はグイッと腕をつかんできた。

 彼はきっと、若い頃からモテ続けてきたタイプなのだろう。女性との距離を縮めるのが上手で、どちらかといえば恋愛は苦手分野だった美月の懐にもするりと入り込んできた。付き合いはじめたばかりの頃は、そういうリードしてくれる感じが素敵だと思っていたけれど……。

「放してください」

 言いながら、美月は彼の手を振りほどく。彼はふっと薄く笑む。表面的で誠意のない笑みだ。

「由奈とのこと……美月に悪かったなとは思ってるよ。けど、俺は自分の将来を一番に考えた」

 堂々と、彼は言ってのける。

「そもそも、美月が仕事より俺を選んでくれていたら、こんな状況にはならなかったのに」

 美月はグッと下唇を噛む。

(なによ、それ。二股の責任が私にあるとでも言いたいみたい)

「私は……」

 結婚より仕事を選んだわけじゃない。美月は、ただ結婚と仕事を両立したかっただけ。でも彼は美月の夢を認めてくれなかった。話を聞こうとすらしてくれなかったじゃないか。

「仕事やめる宣言した話も聞いたよ。うちより、いいところに転職なんて不可能だってわからないのか?」

 省吾はあきれたように苦笑する。

「俺と結婚しておけばよかったと後悔するのが目に浮かぶな。まぁ、由奈は実家が魅力的だし、今さら彼女を手放す気はないけど」

(私、馬鹿だったな)
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