エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
 彼は向上心が強く、野心の塊のような男だ。たしかに仕事の面では有能で、憧れた。でも美月は彼の外面しか見ていなかったようだ。利己的で、生涯の伴侶すら自分にとって利用価値があるかどうかで判断する。

(うん、別れて正解。むしろ感謝したいくらい)

 決して負け惜しみではなく本心からそう思った。美月が冷めた眼差しを返すと、彼はスッと顔を近づけてきた。

「寂しいときに慰めるくらいなら、してやってもいいよ。そのときは連絡――」

「お待たせ、美月」

 ふいに、美月の肩に誰かの腕が回る。下品な笑みを浮かべていた省吾が、急に真顔になる。

「は、誰?」

 美月はぐるんと勢いよく斜め上を向き、自分に声をかけた人物に目を白黒させる。

(晴馬?)

「え、な……」

 なぜここにいるのか? 

 そう聞きたかったけれど、晴馬は小さくウインクをして美月を制した。その表情には見覚えがあった。小学校時代、誰かのピンチに「任せろ」と言うときの彼の顔だ。

 晴馬は省吾に向き直る。省吾も背は高いほうだが、とびきり長身の晴馬に見おろされてビクリとしている。晴馬は筋肉質であきらかに強そうなので、省吾は本能的な恐怖を覚えたのかもしれない。

「そちらこそ。誰だか存じませんが、俺の大切な恋人に気安く近づかないでくれます?」

 丁寧だが語気を強めて、晴馬は省吾を牽制する。

(やっぱり、話を聞かれてたんだな)
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