エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
 今の会話から美月と省吾の関係性をなんとなく理解して、かばってくれたのだろう。

「疲れただろう。早く帰ろう」

 甘い笑みを向けながら、美月の肩を優しく引き寄せる。素敵な恋人を演じてくれているのだとわかっているけれど、より一層近づいた距離にドキンとしてしまった。柔軟剤かシャンプーか、晴馬らしい爽やかな香りが美月の鼻をくすぐる。

「う、うん」

 この場は彼に任せてしまおうと思って、晴馬の策にのる。白状すれば、見栄もあった。同性である省吾の目から見ても、晴馬は絶対に魅力的な男性だから。

(みじめな気持ちが、ちょっと吹き飛ぶな)

 美月の思惑にまんまとはまって、省吾がイラ立った様子で美月の肩に手を伸ばす。

「なんだよっ。そっちも二股だったってことか?」

 晴馬はその手をそっけなく払いのけて、唇の端だけでニヤリとする。

「おめでたい頭ですね。二股じゃなくて俺が本命……とは考えないんですか?」

 呆然とする省吾を残して、晴馬と美月は踵を返した。

「あ~、気分すっきり!」

 美月は両腕を頭の上に、う~んと伸ばす。目の前には静かな夜の海が広がっている。

 先日、家まで送ってもらったときにも通った海沿いの遊歩道。夜はロマンティックな雰囲気で、散歩を楽しむカップルも多い。
 季節はもうすぐ七月に入る。夜風はもう夏の匂いを含んでいた。
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