エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
 美月の隣に立った晴馬は鉄柵の上に組んだ腕を置き、のぞき込むようにこちらを見る。ここに来るまでの道のりで、省吾と別れた経緯を話したので美月が落ち込んでいると思ったのだろう。晴馬はものすごく心配そうな顔をしていて、その優しさになんだか泣きそうになってしまった。

(失恋が悲しいわけじゃない。だけど、優しくされると涙腺が緩む……)

 泣き顔は見られたくない。慌てて顔を背けた美月の腕を晴馬がグイッと引いた。

「きゃっ」

 美月はバランスを崩して、彼のほうに倒れ込む。晴馬は大きな手を美月の後頭部に回し、自分のほうへと引き寄せた。美月の上半身が彼の逞しい胸筋に包まれる。

「こうしておけば見えないから」

 泣いてもいいよ、と言いたいのだろう。

「泣いたりしないけど……もうちょっとだけ、こうしていてもいい?」

 今だけは、誰かの優しさにすがってしまいたかった。逆風のなか、ひとりで立ち続けることに少し疲れたのだろう。

「好きなだけどうぞ」

 恋人でもない男性に抱き締めてもらうなんてダメだとわかっているけれど。彼の腕のなかは信じられないほど安心できた。体温も鼓動のリズムもしっくりとなじむ。自分と彼と、どちらのものか判別できなくなるほどだ。

 離れがたい。そんなふうに思っている自分に気がついてハッとする。美月は慌てて彼を押し返し、身体を離した。

「ごめんね。調子にのりすぎた」
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