空飛ぶ消防士の雇われ妻になりまして~3か月限定⁉の蜜甘婚~
(わ、私も逃げないと)
エレベーターはきっと使えないから、階段だろうか。美月は震える足をどうにか動かそうとした。でもそのとき、焼き肉屋の出口付近で若い女性が転んでしまったのが見えた。後ろからやってきた団体客に押され、細いヒール靴を履いていた彼女はバランスを崩してしまったのだ。助けようという明確な意思があったわけではなかったが、条件反射で身体が動いた。
「大丈夫ですか。どうぞ、つかまってください」
美月は彼女に駆け寄り、手を差し伸べる。
「すみません、ありがとうございます」
その瞬間、美月は目にしてしまった。
焼き肉屋の厨房内、想像以上の高さで揺らめく火柱。パチンパチン、コォーと美月にとってはこの世のなによりも恐ろしい音を立てていた。
「あ、あ……」
美月の口はハクハクと動くばかりで言葉にならない。額から油汗がダラダラと流れ、吐き気が込みあげてくる。
「大丈夫か? 早く、こっち」
美月が助けた女性の、恋人らしき男性がやってきて彼女の腕を引いた。女性は「ありがとうございましたっ」と短く告げて、彼とともに階段のほうに向かって走っていった。
(私も……早く逃げよう……階段、階段のほうに)
頭ではわかっているのに、視界がグニャリと歪んで、自分の進行方向すらわからない。
(待ってよ。私、失恋して仕事まで失って……)
すでにドン底、これ以下に落ちるなどありえないはずだった。
エレベーターはきっと使えないから、階段だろうか。美月は震える足をどうにか動かそうとした。でもそのとき、焼き肉屋の出口付近で若い女性が転んでしまったのが見えた。後ろからやってきた団体客に押され、細いヒール靴を履いていた彼女はバランスを崩してしまったのだ。助けようという明確な意思があったわけではなかったが、条件反射で身体が動いた。
「大丈夫ですか。どうぞ、つかまってください」
美月は彼女に駆け寄り、手を差し伸べる。
「すみません、ありがとうございます」
その瞬間、美月は目にしてしまった。
焼き肉屋の厨房内、想像以上の高さで揺らめく火柱。パチンパチン、コォーと美月にとってはこの世のなによりも恐ろしい音を立てていた。
「あ、あ……」
美月の口はハクハクと動くばかりで言葉にならない。額から油汗がダラダラと流れ、吐き気が込みあげてくる。
「大丈夫か? 早く、こっち」
美月が助けた女性の、恋人らしき男性がやってきて彼女の腕を引いた。女性は「ありがとうございましたっ」と短く告げて、彼とともに階段のほうに向かって走っていった。
(私も……早く逃げよう……階段、階段のほうに)
頭ではわかっているのに、視界がグニャリと歪んで、自分の進行方向すらわからない。
(待ってよ。私、失恋して仕事まで失って……)
すでにドン底、これ以下に落ちるなどありえないはずだった。