エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
 まるでキスするみたいな距離に、彼の瞳がある。深みのある黒が綺麗で、そこに困惑した表情の自分が映っている。

「その素敵な恋人、俺じゃダメか?」

 サァと優しく吹いた夜風にのって、晴馬の艶めいた声が届く。

「――え?」

(げ、幻聴? それとも、からかってるの?)

「な、なんの冗談?」
「真面目な話だよ。美月、俺と取引をしないか?」

 取引とはなんなのか、検討もつかないけれど……晴馬の口ぶりが真剣なので口を挟みづらい。美月は黙って彼の話の続きを聞く。

「奥さんのふり?」

 晴馬の持ちかけてきた取引は、あまりにも突拍子のない話だった。彼は美月に、三か月だけ妻を演じてほしいというのだ。

「さっき、俺が帝都グランデにいたのは親族会議があったからなんだが……」
「ご家族と一緒だったの? みなさま、お元気?」

 晴馬の両親と兄の佑馬(ゆうま)。懐かしい顔が脳裏に浮かぶ。

 美月の母は北原家のお手伝いさんとして働いていた。だから美月も、晴馬の家族とは面識があった。

「元気だよ、両親も兄貴も。海外を飛び回っているから、日本にいる日は少ないけどな。今日も父親は不在だったし」

 その辺りは当時から変わっていないようだ。

「よかった! あ、ごめんね、話の腰を折っちゃって。続けて」

 美月に促され、彼はまた話し出した。

「そこでちょっと面倒な話が出てね」
「面倒?」
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