エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
 晴馬の結婚にこだわっているのは祖父の善次郎だけ、ということらしい。

「もちろんサインした婚姻届を実際に出すことはしない。祖父が結婚したと思い込めば、それでいい。彼がドバイに戻って少ししたら、『性格の不一致で残念ながら離婚することになった』と伝えるから」
「だから、三か月だけの妻なのね」
「あぁ。スピード離婚であればあるほどいいんだ。『結婚はこりごり、しばらくはひとりでいい』と言いやすくなるからな」

 彼の提示する取引の内容は理解できた。だが、簡単に「OK」とは言えない依頼だ。

「ええっと、事情はよくわかったけど……」

 結婚を急かされるつらさはよくわかる。人生の重大事項だからこそ、自分の気持ちとタイミングも大切だ。

(とはいえ、私が妻のふり……はやっぱり無理があるような)

 晴馬自身はビジネスに関わっていないとはいえ、自分が北原家に嫁入りできるような人間とは思えない。釣り合いってものがあるだろう。

「私より、もっと適任の女性がいるんじゃない? そうだ、恋人は?」

 晴馬はとびきり素敵な大人の男性になった。付き合っている女性くらいいるかもしれない。だが、彼に即否定される。

「いたら、美月に頼まないだろ」
「たしかに。でもさ、晴馬なら喜んで手をあげてくれる子がいると思うけどな」

 晴馬はクシャリと後頭部の髪を乱して「う~ん」と弱ったように笑う。
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