エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
 瞬く間に時は過ぎ、七月下旬。

 美月は昨日、帝都グランデでの最終勤務を終えてきた。残り数日は有給休暇を消化させてもらい、末日づけで正式に退職となる。

 パールトンホテルの面接は十日後の予定で、もし採用をもらえたら九月から勤務できるそうだ。

(つまり、しばらくは専業主婦かぁ。まぁ偽物だけどさ)

 空に浮かんでいるような、非現実的な眺望を眺めながら美月は苦笑を漏らした。

 豊洲駅からほど近い、四十三階建てのタワーマンション。常駐のコンシェルジュサービスはもちろんのこと、ワーキングスペースを兼ね備えたライブラリーにプールとフィットネスジム。入居者専用の保育園まであるラグジュアリーマンション。晴馬の暮らす部屋はここの最上階。

 彼と再会した夜にも世話になったこの部屋で、今日から美月も暮らすのだ。

『もともとは両親が住む予定だったんだけど、仕事の都合で拠点をアメリカに移さないといけなくなって……それで俺が管理人代わりに暮らしている。高層マンションは災害時にはどうしても不便になるから、消防士としては一軒家のほうがオススメなんだけどね』

 彼はそんなふうに言って笑っていた。

 同居は彼の出した条件のひとつ。もうすぐ日本にやってくる彼の祖父が家にも遊びに来たいと言っているそうで、その対策のためだ。

『おじいさまが来るときだけでいいのでは……』と美月は主張したけれど、『あの人はアポなしで突撃とか、そういうことを平気でするから同居は必須だ』と晴馬に却下されてしまった。

(パールトンホテルのチャンスをもらった以上、あまりワガママは言えないものね)
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