エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
 朝ごはんを終えると、ふたりはすぐに家を出る。

 車の助手席を開けて美月をエスコートするとき、晴馬がじっと顔を見つめてきた。

「な、なに?」
「今日、いつもと雰囲気が違うなと思って」
「あ、気づいてくれた?」

 ホテリエは頼りがいがありそうに見えることが大切なので、仕事中はきっちり隙のないヘアメイクを心がけている。

「それが習慣になってオフの日も同じメイクをしていたんだけど、今日はもう少し柔らかく見えるようにがんばってみた。……変かな?」

 自分ではいい感じだと思ったけれど、やっぱり甘めピンクのリップは似合わなかっただろうか。まじまじと見られると不安になってくる。

 晴馬はふっと笑って、首を横に振った。

「いや。いつもの綺麗な美月もいいけど、今日はかわいい。よく似合うよ」
「……ありがとう」

 かすかに頬を染めた美月を乗せて、車が静かに走り出す。

 黒と赤を基調にしたゴージャスな内装、回転する円卓のある個室。善次郎の宿泊していたホテル内に入っている高級中華料理店で、彼と対面する。
 帝都グランデホテルは老舗なので、VIPなお客さまをお迎えする機会は多かった。そんな美月でも、財界の重鎮と呼ばれる北原善次郎を前にすると緊張で指先が震えた。

(い、威厳がすごい)

 椅子に腰かけていても、年齢のわりに背が高いことがわかる。シャンとした姿勢に鋭い眼光。白髪に白ひげは貫禄たっぷりだ。
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