エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
 慌てて口を塞いだが、遅かった。探るような善次郎の視線が突き刺さる。

「おや、美月さんは知らなかったかい? 晴馬は昔、激辛料理でおなかを壊したことがあってね、それきり食べられなくなったんだよ」

(知らなかったよ~。給食に激辛料理なんて出ないし、私は料理下手でそんなに本格的なものは作らないし……)

 焦りまくる美月に代わって、晴馬が返事をする。

「その話を知られるのが恥ずかしいから、隠してたのに。バラさないでくれよ」

(ナイス、晴馬! 自然な言い訳だわ)

「家での食事は定番の家庭料理ばかりなので、辛いものが苦手とは気づきませんでした」

 美月もフォローを重ねる。この言葉自体に嘘はないので、自然に言えたと思う。
 善次郎はおいしそうに中国茶をすすってから、口元をほころばせる。

「それもそうじゃな。日本の食卓に四川料理は並ばないからの」

(よかった。ごまかせた?)

 けれど、他意はないのか、それとも疑っているのか。善次郎はふたりの関係をためすような発言を時折混ぜてきて、そのたびに美月をハラハラさせた。

(嫌われてはいないと思う……だけど……)

 にこやかにお喋りをする善次郎の顔を美月はそっと盗み見る。

「おや、どうかしたかい? 美月さん」
「いえ。ここの杏仁豆腐はおいしいなぁと思って」

(うぅ、全然読めない)
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