エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
『美月は仕事をやめて、俺のサポートに専念してよ。そのぶん、俺がバリバリ出世するからさ』

 続いた彼のひと言に大きなショックを受けた。美月はホテリエの仕事が大好きで、コンシェルジュデスクのチーフを目指して邁進していた。同僚であり恋人でもある省吾はそれを知っているはずなのに……。美月は『結婚しても仕事は続けたい』と彼に訴えたが、対話にならなかった。

『結局、美月は俺との結婚より仕事が大事なわけね』

 それからなんだかすべてが噛み合わなくなり、彼は美月の仕事を応援してくれなくなった。同じ職場で働く彼に失敗を願われるような状況は息苦しく、美月自身も〝別れ〟を意識しはじめてはいた。

 もっとも、彼のほうはとっくに見切りをつけて新しい道を歩き出していたようだけれど。
 
(全然デートもしていなかったし、省吾さん的には自然消滅のつもりだったのかな? いや、それにしても……これはないでしょう⁉)

 彼への恨みつらみは、もちろんある。よりによって職場内での三角関係なんて、あることないこと噂されるに決まっているし勘弁してほしいのが本音だ。少なくとも、美月に正式に別れを告げてからにすべきだと思う。

 でも、恋は頭で考えてするものじゃないから。ふたりが恋に落ちてしまったのなら、仕方がないのかもしれない。寿退社を決めたという彼女と、妻には家庭に入ってもらいたい彼。きっとふたりは相性がよく、似合いのカップルなのだ。
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