エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
「デ、デートではないよね? 明日のための練習ってだけで」

「冷たいこと言うなよ」

 晴馬は苦笑して、ジャケットの胸ポケットからなにかを取り出す。

「せっかく、美月のために用意したのに」
「え、それ……」

 横浜名物の大きな観覧車で有名な、遊園地のチケットだ。子どもの頃、美月はここが大好きで、亡き母に『連れていって』とよくおねだりしていた。

「嬉しい! ありがとう、晴馬」

 思い出の遊園地を訪ねる機会をくれた彼に、心からの感謝を伝える。

「お、珍しく素直だな」

 晴馬はごく自然に美月の手を引いて、歩き出す。さっき練習したので、今度は美月もうろたえなかった。

「遊園地に入る前にちょっとショッピングに付き合ってくれるか?」
「買いもの? いいよ」

 彼が向かった先はちょっとお高めのセレクトショップ。けれど、晴馬はメンズの売場を素通りして女性用の服が並ぶエリアに足を踏み入れる。

「こっちはレディースだよ?」
「あぁ」

 彼は美月のスーツに視線を落として答えた。

「その格好じゃ、思いきり遊べないだろ。靴も、もう少しヒールが低いほうがいいんじゃないかと思って。ここなら全部揃うからさ」

 美月が今履いているのは、先のとがったポインテッドトゥの黒いパンプス。ヒールの高さは五センチ程度だけれど、スーツに合わせたビジネス用。たしかに、遊園地に適しているとは言いがたい。
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