エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
「ねぇ、どういうことなの?」

 先ほど目をそらした同僚とは違う、別の先輩女性が美月に声をかけた。彼女はよくも悪くも図太いタイプで、あまり空気を読まない。
哀れみのなかに、ほんの少しの好奇心がにじむ眼差し。

 美月と省吾の交際は堂々と公言していたわけではないが、近い部署で働く同僚はだいたい知っていたはず。二年も付き合っていたので隠しきるのは難しかった。なので、この状況は美月以外の人にとっても驚きだったのだろう。

「あ~。実は……私たちは結構前に別れちゃったんです。なので全然! お気遣いなく」

 にこりと笑って、そう答えた。というより、そう言うしかないではないか。由奈は妊娠までしているのだから。
 
 やるせない思いは、作り笑いの裏に隠す。

「はい、おめでとうございます。ということなので、妊婦になった本間さんの業務にはみなさんも配慮をお願いしますね」

 美月と由奈の直属の上司である加賀谷(かがや)の締めの言葉に、パラパラと拍手が起きる。やや不揃い気味なのは、美月に気を使っている人間もいるからだろう。

 思うことも言いたいことも我慢して、美月もちゃんと祝福の拍手を送る。思ったより大きな音が出たせいか、ふいに省吾がこちらに顔を向けた。
 目が合うとすぐに、彼はスッと冷たく視線を外す。気まずそうにするわけでも、申し訳ないという表情をするでもない。この態度が彼の美月への気持ちなのだろう。
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