学校イチのイケメン問題児が、なぜか私を溺愛してくる。
第一話


◇教室(詩織のクラス)

生徒「生徒会長ーー!職員室で先生が呼んでる!」

詩織は振り返り、淡々と返事をする。

詩織「分かった、今行きます」



ー私は瀬川 詩織。花吹高校の2年生。

求めるのは平穏な生活。ただそれだけ。


◇廊下


詩織が職員室までの廊下を歩く。サラッと詩織のストレートロングの黒髪が靡くと、周りの生徒がざわついた。


生徒「ーーっあ、生徒会長だ……っ!」


生徒「この間の試験もトップだったよね!それに剣道部の部長でしょ?」

"文武両道" 

生徒「先生も本当に頼りにしてるし……完璧だよね!」

"完全無欠"


生徒「「「本当……憧れちゃうよね〜!」」」


ーー私はこの学校の生徒会長だから。


·

*

◇職員室


先生が、困った表情をしながらガシガシと頭を掻いて、話す。


先生「じつはなあ……少々まずい問題児がいて……そいつ出席日数がまずいことになりそうなんだ」

詩織「(いやな予感……)ええと…」


詩織がそう呟くと、パンっと先生が目の前で両手を合わせた。
それに詩織はぎょっと目を見開く。


先生「頼む、アイツを授業に出させてくれ…!」

詩織「(っ、!?)」

先生「瀬川にしか頼めないんだ……!」

詩織「…わかりました……」


圧に押されて、しぶしぶと頼みを受け入れた詩織。その感情は表に出さず、ニコリと笑顔を守っている。



詩織「(ていうか、"アイツ"って……まさか)」



◇空き教室


ガラッと扉が開くと音に、外を向いていた真綺が反応した。


詩織「……いた」

真綺「……あれ、誰かと思えば生徒会長じゃん。はじめまして」

詩織「私のこと、知ってたのね」


「そりゃあ、ね」とうっすら笑みを浮かべる真綺。その笑顔からは何も読み取れない。

詩織は黙ってじっと真綺を見つめる。


ーーー桐谷 真綺


授業には出ない、すぐに寝る。
"気だるげ"
"ミステリアス"

そう言われている、学校イチの問題児。

私とはまるで正反対。

だけどその顔の良さから、女の子たちからはめちゃくちゃ人気。

たしかに、顔はきれい……。


そう思ったとき、真綺がその視線に気づき、首を少し傾ける。


真綺「……なに、惚れた?」

詩織「いいえ」


詩織は真顔で即答した。スパッと効果音が聞こえてきそうなくらいハッキリと。



詩織「先生からの言伝よ。あなた、出席日数が足りなくなるかもって」


真綺「へえ、それは困るなあ」

詩織「(ぜんぜん困ってるように見えない…)」


なかなかに扱いにくい。なんとなく、この人は苦手だ。

何を考えているか分からない瞳が私を捉える。


詩織「(……とりあえず、生徒会長として彼を教室に向かわせないと)」

  「授業に出てほしいんだけど」

真綺「めんどい」

詩織「………」


話が進まない……。
そうだわ、"問題児"桐谷 真綺が「うん、いいよ」なんて言うわけがなかった。

でも先生相当困っていたし……どうすればーー。



真綺「ーーーあ、やっぱいいよ?」


そう言って、真綺は一歩前に踏み出して詩織に近づく。詩織には、目と鼻の先の距離だった。

真綺はスッと詩織の唇の端に人差し指をおいて、



真綺「ーー生徒会長が俺の遊び相手になってくれるなら」


にこっと綺麗な顔が微笑む。
その言葉に詩織は声を詰まらせ、驚きで目を見開いた。



ーーーまずい、これは。



どくどくと、詩織の鼓動がはやくなる。
じり、と足を後ろへ下げ、"顔をみられないため"に俯いた。



真綺「……どうする?」

詩織「ーー…っ、授業があるので戻ります」



詩織はスンッとした顔で真綺に告げ、素早く後ろへ振り返り、廊下へ走る。


タタタ…と詩織が去っていく音がしたのち。


真綺は追いかけず、その場へ留まり、後ろから一瞬見えた"詩織の顔"を思い出していた。


真綺「ーー……」



 
◇教室



詩織は戻ると、席に座り、頭を抱える。


詩織「ーーっはあぁぁ…」


生徒「(生徒会長めっちゃ落ち込んでる……)」

生徒「(あそこだけ暗い……)」

生徒「(生徒会長なにかあった……?)」



どうしよう、彼を説得できなかった。

しかも、私が逃げたみたいになっちゃったし……。


このままだと彼は留年…そして私も、先生からの頼みを遂行できなかったことになる。


詩織「(そんなのだめ。なんとしても桐谷 真綺…あの問題児を説得しないと)」


『生徒会長が俺の遊び相手になってくれるなら』



ーーだれがなるか。






◇放課後
 

周りの生徒たちは「遊びに行こー!」と友達と予定を立てたり、「疲れたー」とぼやいたりしている。

そのなかで廊下をもんもんとしながら歩く詩織。


詩織「(……結局、何もしないまま放課後になっちゃった……)」


もう一度さっきの教室へ行く?

でもまた断られる可能性は高いしーー


そう思って角を曲がった瞬間、ドンっと派手に誰かとぶつかった。


詩織「わ、っ」

??「うぉっ」


詩織はへたっと尻もちをついた。

ぶつかった相手は、「ごめん、大丈夫?」と手を差し伸べ、詩織はそれに手を置こうとする。


詩織「こちらこそごめんなさい、余所見をしていてーーー」


ぱっと上を向いた瞬間、詩織は目を見開く。伸ばしていた手がピタリと止まった。


詩織「え」

真綺「……あ、生徒会長」




運がいいのか、わるいのか。




ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー



◇廊下(自販機前)


「喉乾いた」と一緒に連れてこられた自販機。ここは人通りが少なくて、今は詩織と真綺の二人だけだった。


ガコンっとペットボトルが落ちる音がひびく。


「はい」と真綺からジュースを渡され、詩織は素直にお礼を言いながら受け取った。


真綺「で、生徒会長はまーた俺に授業に出ろと?」

詩織「…そうよ」

真綺「…んーまあべつにいいけど」


!!!

詩織は先ほどまで苦かった顔をぱっとした。笑顔ではないが、嬉しさが滲む表情で。


詩織「本当?」

真綺「うん、そんで俺面白いこと思いついちゃった」


ごく、とジュースを飲み終えペットボトルを下ろしたあと、真綺は唐突に詩織にキスをした。


詩織「(は)」


な、にーー


詩織は驚き、キスされたと気づいた瞬間、ばっと顔を離した。

そして、その顔は。


真綺「ーーは、予想通り」

詩織「(………あま、い)」


詩織の心臓はどくどくと鳴りやまず。

息を乱して自分を見つめる詩織に真綺は勝ち誇ったように微笑む。


彼の目の前には、普段の彼女からは想像も出来ない、詩織の真っ赤な顔をだった。



真綺「生徒会長、男に慣れてないんでしょ」


その言葉に、詩織はどき、と体を強張らせる。
顔を見せないように、ぱっと下を向いた。


詩織「……っそんなこと」

真綺「ほら、逃げないこっち向く」

詩織「……っ!!」


くい、と真綺は片手で詩織の顔を自分へ向ける。


真綺「はは、顔真っ赤」


ーーーバレた


真綺「さっきも近づいたとき真っ赤になってたんでしょ」


"頼れる生徒会長"
"いつも冷静"

ずっと、隠してきたのに。



詩織はぎゅっと目をつむった。


詩織「(バラされたらーーー)」

真綺「かーわい」





詩織は思いもしない言葉に呆気にとられる。

そのまま吸い寄せられるように真綺を見つめた。


真綺「バレたくないみたいだし、男慣れしといた方がいいよね?」



ーー私は生徒会長。望むのは平穏な生活。


だけど


真綺「決めた。俺、せーとかいちょーのセンセイになるってことで」



真綺は綺麗に、そして妖しく口角を上げた。



詩織「……は?」







ーーーこの綺麗な問題児にこわされてしまうのかも。






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