学校イチのイケメン問題児が、なぜか私を溺愛してくる。
第二話




◇廊下


瀬川詩織、高校2年生。


詩織「ーーえっと…なんて?」
  「(どうしようどうしようどうしよう)」


詩織は冷や汗を流しながら、その大きな瞳で目の前の男を見つめる。


ーー"何でも完璧な生徒会長"という私の唯一の弱点である、"男の人に耐性がない"というのを、


真綺「俺が手伝ったげるよ?生徒会長の男慣れ」


ーー学校イチの問題児に知られてしまった。


詩織「…っそんな必要なんてない」


これからも隠し通せるんだから、と詩織は俯きがちに強く真綺に言い放つ。
強がりにしか見えない彼女に、真綺はくすりと笑った。


真綺「生徒会長、気づいてないの?」


そう言ってぐっと近づいたら、真綺はするりと長い黒髪に覆われていた詩織の顔を暴く。



真綺「こんなに顔真っ赤なのに。まだ強がる?」

詩織「ーー!!」


ていうか、キスされたんだった。


急にいろんなことが起こって混乱していた頭が、やっと冷静さを取り戻しつつある。


詩織「(ーーえ、きす?)」

キスって、あの?


詩織「(……っ!!)」


ぼっと顔から火が出たみたいに熱が増す。

詩織はもう一度さっきのキスの場面を思い出して、声にならない悲鳴を上げた。


真綺「あはは、生徒会長百面相しておもしろー」

普段のクールな顔はどうしたのー?

なんて言葉は、詩織の耳には入らない。


詩織「(思い出さない思い出さない……!それに、これだけは言える)」


ぐるぐる頭が混乱しているなか、詩織はやっとの思いでこれを告げた。


真綺「ねえ、」


またはっきりと瞳を捉えられて、もう一度二人の距離がゼロになりそうなときー…


詩織「っ、遠慮します!」


詩織は普段の冷静な姿とはかけ離れた、顔を赤らめて取り乱した状態で、ドンッと真綺から逃れる。


真綺「……あ、逃げられた」


廊下には、真綺がひとりポツンと取り残された。




◇正門前

落ち着いた様子で昇降口を通る詩織。

??「あ、やっと来たー」

おそいよー?と声がして、詩織はふっと顔を上げた。

詩織「綾華…」

明るい栗色の髪に、綺麗にそろえられたボブカット。
そんな彼女は、詩織と中学校のとき仲がよかった友達。


綾華「今日遊ぶって予定、忘れてるんじゃないかなーって……って……」


詩織が綾華に近づくと、綾華は声を徐々に小さくしている。その瞳は驚きに満ちていた。


綾華「……なんでそんなに顔真っ赤なの?」

詩織「……っ」


落ち着いている様子なんて、まっかの嘘。
詩織の頬はりんごみたいに真っ赤だった。


ーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー


綾華「あははっ!まだその設定続いてたの?」

詩織「ちょっと、設定って!」


大きな声で笑う綾華の声がカフェに響く。
綾華は「はー…めちゃくちゃ笑った…」と、ドリンク片手に涙を拭っていた。


綾華「だって詩織、ずっとピュアだったのに、いきなりそれ隠してクールになっちゃうんだもん!」

詩織「…うう……」

綾華「そのせいでボロが出せなくなったってこの前電話で言ってたけど、自業自得じゃん?」


ズバズバと言う綾華に対して、その言葉がぐさぐさと刺さる詩織。

普段のクールはどこへやら。しょんぼりと肩を縮めている。


綾華「で、それがバレたって?」

詩織「そうなの……一生の不覚」

綾華「べつにバレたってよくない?」

詩織「だめなの!私は"冷静"とか"完全無欠"で通ってるのに、男慣れしてないなんてカッコ悪いところ今更見せられない」

·

詩織のイメージ:

生徒「生徒会長!」

詩織「どうしたの?」


キリッと冷静な顔をしてふりむく詩織。


·

詩織「(なのに……まさかバレるなんて)」

真綺『かーわい』

詩織「〜〜っ!」

  「(ていうか私、ファーストキス奪われた……!?)」


あの問題児に?しかも初対面の?


ああもう、いちいち動揺していたらきりがない。もうあれは事故だと思おう。
明日はしっかりしなきゃ。


詩織「(桐谷真綺に弱みを握られてたまるか)」


ぐっと握りこぶしを作って決心する詩織。
その一方で、


綾華「……うーんあれは、男慣れしてないのが可愛いって気づいてないな……」


という綾華の呟きは、詩織には聞こえていなかった。




◯翌日

◇学校:教室


詩織「(もう……どうしよう。昨日はいろんなことがあり過ぎてあんまり眠れなかった)」


ふう…と頬杖をつきながら考え込む詩織。窓側の自分の席で、ぼんやりと外を見つめる。

いつの間にか、授業が始まる合図である「きりーつ」と日直の声がして、ハッとした。



詩織「(そういえば……桐谷真綺は来るのかな。でも昨日の条件(?)を私は飲まなかったし……)」


というか、逃げてきたし。

来ないだろうな、と思った刹那。


ーーガラッと、教室の扉が開いた。


詩織「(ーーえ)」

桐谷、真綺。


詩織「(…なんで!?)」

先生「お!桐谷、ついに授業出る気になったのか!」


突然のことに詩織は驚いて目を見開き、思わず凝視してしまう。もちろん、他の生徒たちも動揺して固まっていた。

その視線に気づいたのか、真綺は他の人には見えない程度に詩織に薄く笑みを浮かべた。


詩織「……っ」


珍しい真綺の姿に、クラスメイトの女の子たちは小声できゃあきゃあと騒いでいる。


生徒「うそ、桐谷くんじゃん…!」

生徒「珍しすぎない!?ほんとイケメンなんですけど…!」


授業中なのに騒がしい教室で、真綺はまっすぐに自分の席へ向かう。


詩織はその時、あることに気づいた。


ーーあれ、ちょっと待って。

私の隣が空席ってことは……


生徒「ていうことはさ、ねえあそこ!」


カタン、と隣にカバンが置かれる音がして、振り向けば。

まさか。


生徒「ビジュ良すぎない!?あのふたり!」


ーーーうそでしょ。

まさかの隣の席が真綺だったのだ。


詩織「(そういえば席替えしてから隣来ないな…なんて思ってた、けど)」


真綺は口パクで「よろしく」と楽しそうな顔。詩織はもう口が開いて塞がらないという状況。

なんでだろう、副音声に「あのままで終わるとでも?」っていう黒いものが聞こえるのは。


詩織「(……もしかして、私)」


ーーー逃げられないんじゃ。



ーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー


◇空き教室(昨日と同じ)


真綺「…ってことで、生徒会長サン?昨日の返事を聞かせてもらおーか」


なぜか至近距離、後ろは壁、手は押さえられてる。

恥ずかしいことこの上なくて、今にも顔から火が出てしまいそうなくらい、あつい。

それでも詩織は精いっぱい"平気なフリ"をする。


詩織「……もう授業出たし、私にはもう関係な……」

真綺「じゃあ……会長の"弱み"全校生徒にバラしちゃおっかなー」

詩織「ーーっ!」



…それだけは、だめだ。


目の前の綺麗な顔は、わるく危険に口角をあげているだけ。

ぐるぐると逃げ道を考えても、答えが一つしか出せない。

私、昨日から動揺してばっかりで、情けない顔を見せすぎている。



詩織「(……ああもう)」


ーーくやしい。


そう思ったあとの詩織の行動は速かった。

サラ、と黒髪がなびいたあと、真綺のネクタイをぐい、と引っ張ってふたりの顔は今にもくっつきそうなほど至近距離。


真綺は突然の詩織の行動に驚いて目を見開いた。


ーーこの男に近づくのはたぶん、危険。…だけど、仕方がない。


もう十分近づいてしまったのだから。



そして、詩織は言葉を放つ。



ーーこれが




詩織「ーーー……なら、教えてみなさいよ」







ーー私と彼の、不自然な関係のはじまり。







< 3 / 9 >

この作品をシェア

pagetop