学校イチのイケメン問題児が、なぜか私を溺愛してくる。
第三話



『ーーー……なら、教えてみなさいよ』


なんて、言ってしまったけど。


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◇教室
◯授業中


先生「ここはー……」


先生が授業をしている前で、詩織はカリカリとノートを走らせる。


詩織「(……あ、間違えた)」


消しゴム、は……。あ、れ、…ない。


詩織がゴソゴソと筆箱の中を確認していると、隣からぽん、と消しゴムが降ってきた。

否、降って来るわけはなく。


真綺「(つ)(か)(っ)(て)(?)」

詩織「……っ!」


ぱくぱくと、口パクで伝えてくる隣の真綺。

それにあからさまにギクッと反応した詩織。


詩織「(なんで分かったの……)」



ーーとんでもないことを言ってしまった、あの後。


◯回想


ネクタイを引っ張る詩織、引っ張られる真綺。
至近距離で見つめ合ってるふたり 


詩織「……」

真綺「……ねえ」


ーーと、思いきや。


真綺「大丈夫?」


そこには、ぷるぷると赤面しながら固まっている詩織がいた。


詩織の心臓は爆発すんぜん。全然大丈夫じゃない。

そこで詩織はハッと、自分が何をしたか気づく。

手にはネクタイ、目の前には綺麗すぎる顔。


詩織「(しまった、私つい勢いで……!)」

  「ごめ、離れるーー」


そう言って、詩織は彼から距離を取ろうとする。だけど、ぐっと何かの力によって逸れは阻まれた。

その正体は、後頭部に回った真綺の右手。

詩織は困惑するけど、真綺はにこ、と笑顔をひとつ。


そして彼は、さらりととんでもないことを口にした。


真綺「このまま1回キスでもしとく?」

詩織「っっ、はあ!?」


なな、何言ってるのこの人……!

案の定、詩織は頬を真っ赤にさせる。



真綺「ほんと会長ってからかいがいあるわー」

詩織「(……くそう)」




真綺「でも、言質は取ったよ?」



その言葉と同時。

詩織の黒髪の一房がさら、と細長い指にからんで、



『今日から放課後にここ(空き教室)に集合ね。来ないと……分かるよね?』



そんな脅しとともに、あまいキスを髪に落とされたのだった。




ーーやっぱり桐谷真綺という人は


いろいろあぶない。





◯授業(続き)


詩織「(半ば強引に決められちゃったし……)」


勢いであんなこと言うんじゃなかった……。


ハハ…と乾いた笑みを浮かべた後、ちら、と隣に座る真綺を見る。


……でも、ちゃんと続けて教室に来てくれるのは


詩織「(たぶん根は優しいんだろうなあ……この人)」



っいや、だめだめ。
この人は私の立場を脅かそうとして、しかもそれを楽しんでる人なんだから…!



ぶんぶんと首を振って考えを消そうとする詩織。




ーー神様


ーー私はいったい、どうなってしまうのでしょうか。



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真綺「……あ、やっと来た」


遅かったね、という淡々とした言葉を受ける。詩織はハアハアと、息を切らしながらドアを開けていた。


詩織「(だって、今日に限って生徒会の仕事が長引いたから…!先生から追加でどんどん来ちゃうし、)」


完全に八つ当たりだけど、その涼しい顔がむかつく。



真綺「来なかったら強制的に連れてくるところだった」

詩織「こわい」


詩織「(なんだろう…普通の冗談に聞こえるのに、この人が言うと冗談に聞こえない……)」


そう思いつつも、疲れが溜まった体を側にあった椅子で休ませる。


そんな詩織に、真綺は何やら言いたげな様子。


真綺「……ねえ」

詩織「なに?」

真綺「なんでそんな遠いの?」


教室の端と端、涼しい顔同士の攻防戦。 

にこ、と詩織はそのクールな顔立ちを最大に生かした笑みをひとつ。


詩織「べつに、普通じゃない?」

真綺「どう考えても普通じゃないよね」

詩織「…、」
  「(言えない……あんな大口叩いておいて、今さら緊張してるとか、)」


真綺「緊張してんだ?かわいー」

詩織「ちょっと!」


ぐぬぬ、といった様子で真綺をちょっぴり睨む詩織。

真綺ははあ、とため息をついた後、「仕方ないなあ」と詩織の方へ近づく。


詩織「(…べつに教室に男子と2人っていう状況は初めてじゃない。生徒会があるし。…なのに、)」


なんでこんなに緊張してるのーーー



真綺「ーーおいで」

詩織「っえ、わ…っ」



ぐい、と腕を引かれた先は。



ぽす、とすっぽり収まる真綺の腕の中。



詩織「……!!?」


き、急に…!
抱きしめられてる…!?


視界いっぱいに真綺のシャツがみえる。



詩織「っちょ、はなれーー」

真綺「あー…なんか落ちつく」


離れてもらおうにも、力では勝てないから詩織はされるがまま。

ぎゅ…と真綺が力を入れると同時、どくりと心臓が大きく跳ねる。


ふわりとムスクの香りが胸をいっぱいにした。


ちょっと寄りかかってきて、首に真綺のサラサラふわふわとした髪がふれて。


詩織「……っ」



詩織は耐えられず、ぎゅっと目をつむる。




真綺「てゆーか会長細すぎない?」

詩織「どこ触ってんだ」



その瞬間、ぱっと離れた。



真綺「ごめんって、そういえば会長は近くにも来てくれない超初心(うぶ)なんだもんね」

詩織「……今すぐ校内放送でさっきのセクハラ紛いの発言流してやりたい」



真っ赤な顔で、言っても意味ないかもしれないけど。

せめてもの抵抗として、皮肉だけは言っておきたかった。



真綺「てゆーか疲れた。会長癒して?」

詩織「は…?いや、何言って、」



私、あなたに半分強制で呼び出されたんですけど。

いきなり「疲れた」「癒して」って何!?


ほんと何考えてるか分かんない……。


詩織「(…それに、)」

真綺「会長、こっちこっち」


え?と真綺を見ると、なぜかソファに座ってるではないか。


え、なんで……?
そもそも、ソファどこから出てきたの?


ここは以前資料室になっていたところだから、もしかしたら置いてあったの、かも……?


真綺はポンポン、と自分の横に誘う。


詩織「(すわれ、ってことですか…)」


断っても、どうせさっきみたいに強引な手段を使ってくるのだろうと思って、大人しくすとんと腰を下ろす。


さっきの抱きしめられた感触がまだ残っていて、心臓がやわく痛い。


真綺「疲れた、足貸して」

詩織「っえ」


真綺は詩織の太ももに頭を乗せてだらけるかたちになった。


詩織「(こ、これって膝枕じゃん……っ!)」


慌てながらも、彼を落としてはいけないから大人しくする。
内心では、もう心臓がどきどきと鳴り止まない。



真綺「ねえ、顔ちゃんと見せて」

詩織「っむり」

真綺「これ今日の課題だけど?」

詩織「…っ」


くるくると、真綺は詩織の長いストレートの髪を指に絡めて遊んでいる。

詩織は"課題"という言葉を出されたら何も言えなくて、やっと目線を真綺と合わせる。


真綺「あー…かわい」

詩織「……っ」


ちかい、近すぎる。


視線がやたら甘くて、溶けてしまいそう。



詩織「…っねえ、」


詩織は耐えられず、助けを求めるような瞳と真っ赤な顔で真綺に訴える。



詩織「最初から、ハードル高い、よ…」

  「もう心臓こわれる…から、やだ」


真綺「ーー…」


真綺はぐっと何かを堪えるような表情をしたあと、自身の手で顔を隠す。




ーー甘いあまい毒牙にかかる



真綺「あー…やられた」





詩織「(…耳が、すこし赤い)」




予想外だらけの、1日目。




ーー私はすでに



この男に翻弄されまくっている。




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