学校イチのイケメン問題児が、なぜか私を溺愛してくる。
第四話



◯朝
◇自宅(詩織)


ピピピ…っと鳴るアラームをガチャリと押して、起き上がる。


ぱたぱたと準備を始めて、洗顔のあと。
軽くできてるクマを隠して、普段はあまりつかない寝癖をアイロンで伸ばして。


詩織「んん……ねむい」


詩織「(絶対に寝不足だ……今日会議あるのにどうしよう)」


……ん?会議?


何かが引っかかって、首をかしげる。

そこで詩織は、ハッとあることに気づいた。


ーーー放課後だ…!


詩織「(今日は無理って、伝えなくちゃ)」


うう…いやでも思い出しちゃう。

あんな恥ずかしいこと、たぶん2度とできない。


スマホを手にとって、詩織は真綺に連絡しようとする。
だけど詩織の行動がピタッと、急に止まった。
彼女はものすごく困ったことに気づいたよう。


詩織「(そういえば……私、)」


連絡先知らないな…!?




◇教室


詩織「(んん……どうしよう)」

真綺「……」


机に頬杖をつきながら、バレないように真綺じっと睨むように見つめる。

少し眉間にしわが寄ってるのは、たぶん気のせいじゃない。

仕方がない、これは死活問題なのだから。



詩織「(なんだか私から『今日無理』って伝えるのも……)」


恥ずかしいし……私がやりたい、みたいな感じになっちゃうし……。

だけど行かないことを伝えないと、大変なことになりそう。

スマホで伝えられたらいいんだけど……こう面と向かって連絡先聞くのも…。



詩織「んん…」

真綺「……さっきからムズカシー顔してどうしたの?」

詩織「っえ!?」


詩織「(うそ、見てるのバレてた…!?)」



ドキーっと、あからさまな反応。


完全にふいうちすぎて、思わず大きな声を出してしまった。

一斉にクラスメイトたちが私の方を見て、居たたまれなくなったのは言うまでもなく。


そんな焦った詩織に、真綺は「はは」と笑った。



真綺「そんなに俺のこと見つめて楽しかった?」

詩織「…べつに、見つめてたわけじゃ……」

真綺「熱視線ビシバシ感じたけどなあ」

詩織「……っ」



……くそう。口では勝てない。


にや、とからかう笑みは極上で。周りの女の子たちはすでに倒れそうな人もいる。


仕方がない、白状しよう。

だけど、なかなか言葉が出てきてくれないから。

ふいっと、真綺から顔をそらして用件を伝える。

髪から覗く耳が赤いのは、多分バレてる。



詩織「……き」

真綺「え?」

詩織「……連絡先、っおしえて」



真綺は詩織の言葉にじわじわと目を見開いたあと、とんでもないことを口にした。



真綺「えー…濫用とかしないでよ?」

詩織「するわけないでしょ」


口調は渋っているようだけど……ノリノリでスマホ出してくれるな……?

あと、若干嬉しそう?


詩織の目の前にはいつもとは違う、はにかむような、口元が少し緩んだ真綺の顔。


詩織「(……なんで?)」


なんだか、新鮮で。

ーー私の調子まで狂ってしまいそう。



詩織「(あ……そうだった)」


詩織はタタタ…と画面を打って、送信ボタンを押すと、今度は真綺のスマホからピコンとかわいい通知音が鳴った。


真綺「なに?さっそくーー…」


真綺は言葉を詰まらせる。ピシリと表情が固まった。


詩織『てことで、今日は私、放課後無理だから』

真綺「は?」


にっこり涼しい笑顔は詩織のもの。真綺からは、それなりに黒い声が出たのだった。



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ーーーーーーーーーー


◯放課後
◇生徒会室


放課後、生徒会室に入ると……屍になっている女の子がいた。


それは茶髪のボブカットが似合う後輩で。

私が来たことには気づいていないよう。


??「かいちょお〜…たすけてぇ……」

詩織「……海乃さん?」

??「わあ…っ!会長〜っ!やっと来てくれたんですね!あと"なる"って呼んでくださいね!」

 
この前約束しました!と急に元気になった彼女の名前は海乃なる。生徒会の、立派な書記である。


詩織「なるちゃん、どうしたの…?」

??「瀬川が来ないから、会長大好き海乃の生気が足りないんだってさ」

詩織「目黒くん、久しぶり」


彼は目黒彼方くん。こちらも茶色の綺麗な髪で、前髪を少しあげている爽やかな雰囲気を持った副会長。



なる「わたし、会長がいなくてもう死にそうで……うう、癒してください…」

詩織「ここ最近顔を出してなくてごめんなさい」

彼方「全然大丈夫だよ……って言いたいんだけど、」

なる「はい……急に昨日、先生に一気に仕事任されました……。と言っても、帰り際にどさっと来たので、あまり片付いてなくて…」


こ、これは多い……。

積み上げられた、資料、ファイル、資料、ファイル。

……今日、帰れる?と、思ってしまうほどの量で。
 


詩織「そういえば、高見くんは?」


高見くんは、書記の男の子で、なるちゃんと同い年。


なる「風邪引いたらしくて……休みです」

詩織「……よし、頑張ろうか」



そう言って始まった資料整理とデータ化やその他もろもろ。
スダダダっとパソコンを打って、すぐに一つ一つ片付けていく。


なるはむむむと眉間にしわを寄せて資料とにらめっこ。
彼方はサラサラっと仕事をこなしていく。


そんな中、気合に満ちている者がひとり。



詩織「(昨日のは絶対、桐谷真綺のせい…!振り回されてる自分も悪いけど……)」

ていうか、あの人のこと思い出してる場合じゃないのに…!


詩織はよくわからない怒りをキーボードにぶつけた。


ーーーーーーー
ーーー


なる「はあーおわったーっ!」

詩織「お疲れ様」

彼方「お疲れ」


時計を見ると、まだ割と時間が残っていた。

三人は生徒会室からぞろぞろと出る。

そこで、なるが急に困った顔をした。


なる「っあ!わたし、この後予定あるんでした……。会長また今度、ぜったい一緒に帰りましょーね!」

詩織「うん」


明るい笑顔をぱっと咲かせて、元気に帰っていったなる。

ふたりが生徒会室の前に残された。


彼方「本当海乃は瀬川のこと大好きだよね」

詩織「私そんな好かれるようなことしてない気がするけど……」

詩織「(目黒くんは、何だかふたりだけでも平気だな…。桐谷真綺のときだけ、)」


生徒会仲間だからか、はたまた彼の性格か、目黒くんはとても接しやすい。



彼方「あ、そういえば瀬川って雰囲気変わったよね」

詩織「っえ?」

彼方「前はもっとクールだったっていうか……何か表情が柔かくなった」

詩織「そう…なの?」

  「(自分でも分からなかった……)」



彼方「……あれ、誰かいる」


 


詩織が関心しながら、ふたりで靴箱まで歩いていると、誰かが壁にもたれ掛かるいるのが見えた。




真綺「…あ、会長」

詩織「っえ、……なんで、」

真綺「会長いないとつまんないから、一緒に帰ろうと思って」

詩織「!?」


いっしょに、帰る!?


真綺「てことで行こ」


詩織が慌てている隙に、真綺は詩織の手を取って。


詩織「っわ、ちょっと!またね、目黒くん…!」





真綺は歩き始める前に、鋭い冷たさを宿した真っ黒の瞳を、彼方に向けた。




彼方「……」



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