学校イチのイケメン問題児が、なぜか私を溺愛してくる。
第六話


◯放課後
◇生徒会室



とある生徒が泣きそうな顔をしながら、自身の両手を願うように絡めて、わっと勢い良く叫ぶ。



生徒「会長!助けてくださいい〜!」


ーー非常に、困ったことがおきた。






生徒「わたしの恋愛相談に乗ってほしいんですうぅ……」


彼女びゃっと座ったまま俯いた先には、絶賛困り果てている詩織と、探偵っぽい振る舞いをする なるの姿。


詩織は冷や汗ダラダラ、むしろ彼女の方が心配になりそうなくらい。



ーーーどうしよう。



詩織「(私、恋愛とかしたことないから……!)」

  「な、なんで私に?」


生徒「会長はモテるしめちゃくちゃ美人だし、絶対恋愛経験高いから……」

詩織「(うっ)」



グサリと彼女の言葉が詩織に刺さる。


こんなところで裏目に出るとは思ってもいなかった。
ほんとに誰か助けて。(切実な願い)



なる「会長に相談したらもう大丈夫ですよ!」

詩織「(わああやめて…!)」



そのとき、生徒と詩織たちの間にコト、と紅茶が差し出される。


ふわりといい香りが生徒会室に広がった。



彼方「よければ俺も聞くよ?あ、言いづらかったらいいんだけど……」

なる「いや、"三人よれば文殊の知恵"!ですよ!」



ちなみに会計はまだ欠席中である。



生徒「確かに!そうですね!」

なる「です!」



なんだかやる気満々になっている彼方となる。


詩織「私よりもなるちゃんに聞いたほうがいいんじゃない?」


と、聞いてみるも。


なる「何言ってるんですか会長!会長がいないと意味ないです!」


ふんす!と何かのスイッチが完全にオンになってしまっているなる。


その勢いに、詩織はひええ……!と内心焦りまくることしかできなかった。



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詩織「……ということなんだけど……どうしたらいいと思う?」


真綺「いや、俺?」



時は経過し、空き教室にて。



真綺「急に呼び出されたから何かと思えば……」


【詩織:今すぐ来て。緊急事態】


詩織「今"そんなことかよ"って思ってるでしょ。そんなことじゃないの、大事なことなの」


真綺「大変だねー(棒)」

詩織「真面目に聞いて」

真綺「てかなんで俺?」

詩織「……そ、れは…、」

  「なんか、慣れてそうだし」


ぐっと、少し恥ずかしそうにそういう詩織。



真綺「……ふうん」




真綺「内容は結局なんなの?」

詩織「えっと……」


生徒『わたし彼氏がいて、もうすぐ一ヶ月なんですけど、……付き合い始めてからなんか…よそよそしくなっちゃって。私も緊張して上手く離せないし。この前も約束してたのに、避けるみたいに先に帰っちゃって……もうむこうは別れたいって思ってるかも…』




詩織「私、そのとき上手く言えなくて……だから、ちゃんと考えて伝えたいの」

真綺「……ふは、会長らしー」

詩織「……?」



真綺は空いている窓の近くへ向かい、かける。


真綺「でも会長、彼氏とか言う前に男にまともに近づけないじゃん」

詩織「……だから、あなたに聞いてるの」

真綺「俺をあてにしても意味ないと思うけどなあー」

詩織「まだ私よりマシでしょ!そもそも好きな人の一人や二人いないわけ……!?」


いや、ふたりはダメなんだけど。
でも、なんか彼女をとっかえひっかえしてるイメージあるし……!



詩織「(……でも、この人は"想う"じゃなくて"想われる"方が多いか)」


  「やっぱり何でもない。自分で考えるーー」


真綺「さあ?どうだろーね……もしかしたらいるかも?」



真綺の声が、やけに鮮明に聞こえて。

さっきまでの軽い雰囲気じゃなくて、少し真剣なものに変わった。

薄く口角を上げて、柔かく目を細めて。


真綺「不器用で、そのくせ隠すのは下手だし、正直めんどくさそう」

 
  「だけど、なんか目が離せない人がいるからね」


詩織「ーー…」
  「…そう」


そんなに話したかったのか、こっちをずっと見ていて、


まっすぐ射貫くように、言葉が伝わってきた。

声が、優しくて、あまくて。



詩織「(そんな顔できたんだ……)」




ちょっとだけ、動揺してしまった。




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◯翌日
◇廊下



詩織がパタパタと廊下を走り、ある生徒の元へと駆け寄る。



詩織「……っあの…!」

生徒「っえ、会長…?」


彼女は、昨日詩織に相談しに来た生徒だった。

彼女は詩織に話しかけられ驚くも、やっぱり落ち込んだ顔をしている。

詩織は少し躊躇うも、すう、と息を吸って。



詩織「……あのね私、好きな人がいるのは、その人と両思いになれるのはとっても幸せなことだと思うの」

生徒「……?はい、」

詩織「その人がいるだけで、明るい気持ちになれるし、気分は和らぐし……何よりね、その人のぜんぶから伝わるの、"好きだ"って」


  「っだからね、少し勇気を出して、お互いがお互いをしっかり見て、話せば、きっと大丈夫。あなたはちゃんと、想いを伝えられる人だと思うから」



詩織は柔く微笑んで、まっすぐ考えたことを伝える。


ーー今の私が、最大限伝えられることを。




生徒「ーー…わたし、もうダメだと思ってたんです」

  「だけど会長のおかげで、勇気出ました。だってこんなに一生懸命伝えてくれたら、頑張るしかないですよね!」



「ありがとうございました!頑張ります!」と、晴れ晴れとした笑顔で、生徒は笑って去っていった。


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詩織は彼女を見送ったあと、ふう…と安心したように息をつく。

張り詰めていた糸がふっと緩んだように、力が抜けた。



廊下の角をまっすぐ通り過ぎようとしたとき、



真綺「いいこと言うじゃん」

詩織「……聞いてたの」



特に驚くこともなく、詩織は立ち止まる。



真綺「あの言葉たち、どうやって考えたの?」

詩織「考えたっていうか……」



詩織は一瞬考えるような仕草を取ったあと、昨日の真綺を思い出す。


詩織「……そう、顔に出てたから」

真綺「え?」



真綺は当然、何を言っているのか分からない、という反応。


詩織はその反応を受け取って、ふい、と少し横を向いたあと、覚悟を決めたようにもう一度真綺の方へ向き直る。



詩織「〜っつまり、……ありがとう…ってこと」


真綺「ーー…」

 

詩織「(〜っ何言ってるの私…!)」



恥ずかしさに耐えられなくなって、スタスタと廊下を歩き出す。
だけど真綺も当然のように隣に並ぶから、あまり意味はない。




ーー勇気を出せば、私も





真綺「…会長ってさあ……」

詩織「なに?」

真綺「たまにめちゃくちゃにしたくなるんだよね」

詩織「っは!?」






ーーあのとき、そんなふうに想われる相手が


少し羨ましいって思った理由が






詩織「どういうこと…!?」

真綺「ふいうちはやめてねってこと」

詩織「??」






ーー分かったりするのかな。







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