学校イチのイケメン問題児が、なぜか私を溺愛してくる。
第七話
Side.真綺
◇教室
真綺が窓の外をを見上げながら、頬杖をついている。
ーーー瀬川詩織の第一印象は
真面目
めんどくさそう
堅苦しい
気が強そう
だって、生徒会長(超マジメな奴がしそうな仕事)だし、普段ぜんっぜん笑顔見せないし。いつも無表情だし。
真綺はふぅ…、と一息つきながら、さらに考え込む。
◯回想
詩織「授業に出てほしいんだけど」
真綺「(やっぱ誰か来ると思ったけど……生徒会長か。……めんど)」
真綺はそう思いながら、お気に入りの空き教室に入ってきた詩織を見据えた。
言葉はひやりと冷たく、無表情で伝えてくるものだから何を考えているか分からない。
真綺「(やっぱ生徒会長っていうのは、俺とは正反対だなー…。とりあえず何か言ってやり過ごそう)」
そう思って真綺は「ーー生徒会長が遊んでくれるなら」と、どうせそうはならないことを知りながらも、詩織に近づいた。
その瞬間、ふと真綺の目が見開かれる。
詩織「……っ」
ーーーは?
じつはこのとき、詩織は必死に顔を隠していたはずだったが、真綺にはバッチリその赤面した顔が見えていたのだ。
しかし真綺はそのことを悟らせないように、何も言わず、その場に一瞬立ち尽くす。
不覚にも、心臓がゆれた。
どく、と一瞬息の仕方を忘れて、はじめて見たその表情に、想像もできなかった反応にーーー何もかもを奪われてしまったように。
ぱたぱたと詩織が走り去る音を聞きながら、真綺はハッと嘲笑う。
ーーーありえない。
恋愛なんて、ただただ面倒くさいだけ。
ありえない。
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真綺「(ーー…って、思ってたんだけどなあ…)」
ーーあの瞬間から、何か重くて甘いものが、ずっと胸から離れない。
真綺「(俺だって意味分かんないし……)」
じっ、っと頬杖をついたまま真綺は隣に座る詩織を見つめる。
詩織は昨日の恥ずかしさが後を引いているのか、真綺を恨めしそうな目でじっとりと睨んだ。
詩織「……なに」
真綺「(……かわい)」
……いや、めちゃくちゃ重症だわ、俺。
普段すこし冷たくみえる印象も
俺だけが見れる赤くなった顔も
それを弱点だと思って必死に隠しているところも
なんかもう、すべてが可愛い。
真綺「(あー…もうずっとこの席でいい)」
そんなことを思ったあと、真綺はハッとあることを思い出す。
何かいいことを思いついたように。
真綺「会長、昼休み俺にちょうだい?」
詩織「はい?」
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◯昼休み
◇空き教室
真綺「会長ってさ、俺のこといつもなんて呼んでる?」
詩織「え?そ、れは…」
「(……いつもは……たぶん、)」
真綺「俺の予想では心の中でフルネーム、とか?」
詩織「!!」
ふたりはお弁当を頬張っている。
そのなか、詩織の箸から卵焼きがぽとりと落ちた。
ーーでも、俺は少しよくばりだから。
真綺「ちょっと名前で呼んでみて?」
にこ、と真綺は楽しそうに微笑む。詩織はその提案にぐ…、と言葉をつまらせ、ぎゅっと目をつむりながら数秒後。
詩織「…桐谷…真綺、くん」
真綺「ダメー」
詩織「桐谷くん」
真綺「それもヤダ」
「(……だって、あいつと同じだし)」
真綺は頭の中であいつーー目黒彼方の姿を思い浮かべる。
生徒会副会長、詩織に近い存在。
そんな奴と同じ名字呼びは、無理。
詩織「〜…からかわないで、……真綺くん」
詩織は耐えられず、頬を紅潮させ、思わず叫びたくなる。
(詩織の心の声:私、男子を名前で呼んだことないんですけど!!)
詩織「〜私ばっかりに言わせてるけど、そういう…桐谷くんこそ、そもそも私の名前知ってるの?いつも"会長"だしーー」
真綺「知ってるよ、詩織」
詩織「……っ!」
詩織は咄嗟に横を向いて、加えて右手で黒髪で顔を隠すけれど、覗く耳は真っ赤。
真綺「あれ?照れてる?」
詩織「ちがう」
真綺「(照れてるなー)」
そこでちょっと、真綺はいたずらを仕掛ける。
真綺「しおりー」
詩織「……」
真綺「しおりん」
詩織「……」
真綺「詩織ちゃーん」
詩織「〜っもう、うるさい真綺…!」
名前を呼ぶたびに照れる詩織で遊びすぎた結果。
みごと、返り討ちにあうのだ。
真綺「ーー…、」
真綺は一瞬、固まる。
ー…一瞬、時間が止まったみたいに
大きな衝撃が、からだを駆けめぐる。
詩織は、はっとして、自分が思いっきり呼び捨てにしてしまったことに、何やらぶつぶつと言い訳を並べている。
真綺は、普段とは違うやわらかい笑みを浮かべて、目を細めた。
なんだろう。
もういろんなところから、ささる。
ーー恋愛なんて、するものじゃないと思ってた。
だけど今は、
真綺「詩織」
もう、きみしか見えない。
真綺「覚悟してて」
「(……呼び捨ては、しばらく禁止しよ)」