学校イチのイケメン問題児が、なぜか私を溺愛してくる。
第八話



○HR(朝)
◇教室



詩織のクラスの学級委員(女の子)が、カッカッとチョークで、黒板に何かを書いていく。


クラスメイトたちはその様子を、ごくりと喉を鳴らしながら見守っている。



学級委員「はーい、ではこれより、球技大会の種目を決めたいと思いまぁーす!」

    「ちなみに優勝賞品は遊園地のチケットクラス分でーす」


"球技大会"


その一言に、わああ!、よっしゃああー!と教室中から歓声が響いた。

このクラスは結構体育会系なのである。


あまりにも騒ぎすぎていたので、男子の方の学級委員が、「静かにしろー」と若干呆れながら苦笑い。

クラスはすでにお祭り状態。
「何やる?」「ぜったい優勝!」などの言葉が飛び交っているなか。

詩織はもちろん、真綺も静かにクラスの様子を見ていた。

詩織はちなみに生徒会所属なので、優勝賞品は知っていた。


真綺「うわあ、すごいやる気ー」


真綺は若干嫌そうな気持ちが、棒読みの声からにじみ出ている。


詩織「(何にしようかな……。去年は卓球に出たし……今年はどうしよう)」

真綺「会長もなんだかわくわくしてない?」

詩織「気のせいよ」


とはいいつつ、すこーし楽しみなのは、本当。


詩織「……ねえ、すごく嫌そうだけど、もしかして運動苦手なの?」



だったら意外だなあ、と様子をうかがっていると真綺は首をかしげながら呟いた。



真綺「んー…」



ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー


◇体育館
◯授業中



ダンッ!と体育館の床から大きな音が響く。

そこには、パスされて跳ねたバスケットボールをパシっと格好よく受け取る詩織の姿。


「会長、いけ!」


その言葉通り、詩織は素早く相手を躱して、綺麗なレイアップシュートを決める。
スパっと気持ちのいい音が聞こえた。



クラスメイト(女子)「会長すごーい!え、バスケやってた?」

詩織「ううん、学校だけ」

クラスメイト(女子)「いやすごすぎ」

クラスメイト(女子)「え、これもう優勝じゃない…!?」

クラスメイト(女子)「めちゃくちゃやる気出てきた…!」

クラスメイト(女子)「頑張ろーね!」



期待と興奮に胸を躍らせるチーム"バスケ:女子"たち。

わいわいと盛り上がっていると、隣のコートから「きゃあー!」と色めきだつ、他のスポーツを選択していた女子の声が聞こえてきた。


もちろんみんなびっくりして、詩織も思わず目を向けるーーと。




男子「またスリーじゃん桐谷……!」

男子「あれで部活入ってないとか」 

女子「めちゃくちゃカッコいい……!」



ドリブルをしながら器用に相手を躱し、綺麗なフォームでシュートを決める真綺。



詩織「(っすごい……ていうか、)」


なにが"「んー…」+何となく微妙な顔"…!


詩織の頭には、そのときの真綺の顔が浮かんでいる。




女子「会長!もーちょい時間あるから練習しよ!」



詩織はまたチームの女子たちと練習を再開。真綺に見惚れてる(見惚れてないけど)暇はない。



詩織「(私も負けてられるか)」



そう意気込んで、パスを受けたーー…刹那。



詩織「(……っ)」


うまく手をボールに合わせることができず、受け取った瞬間に鈍い痛みが手首に走る。


詩織は痛みに耐えるように、一瞬顔をしかめるが、そのままチームメイトにパスを出す。

パスした相手がシュートを決めると、ワッとチーム内が沸いた。

わいわいと会話が弾んでいるなか、詩織はひとり、どんどん大きくなる痛みに耐える。



詩織「(絶対に迷惑はかけないようにする、このくらいなら大丈夫)」



ゆるく右手首を反対の手で握ったまま、その時間は過ぎていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー



○体育の授業後:休み時間
◇教室


トントン、と音を鳴らしながら教科書とノートを揃えて机に置く。



詩織「(……次の授業は、数学)」


まだ少し動かすのに抵抗が残る手首。こっちは利き手だから、授業が危うい。



詩織「(……数学の先生、板書書くの速いからなあ…)」

どうしたものか、と一瞬考えたけど、「なるようになるか」と未来の私に丸投げする。


すると、隣から声が降ってきて。


「……かいちょーは常に頭カタイよね」


ゆるいディスリを飛ばしてきた、その相手はもちろん。



詩織「……喧嘩なら買うけど」

真綺「そういう意味じゃない」

詩織「??」



詩織ははっきりしない真綺の言葉に「何言ってるんだ」と眉をひそめる。



真綺「……その不器用なとこはイイけど、頼るのはダメなことじゃないよ?」

詩織「何言って……」



良いのか悪いのか、その時に授業の始まりを告げるチャイムの音が響いた。



詩織「……」



その授業は、予想通り書くことは多くて、思ったよりも手の負担が大きかった。

 
ーーーーーーー
ーーーーー


詩織「……はあ」


詩織は授業が終わると、まるでさっきまで地獄にいたかのように疲れた顔をした。


詩織「(……どうしよ)」


ノートを取るのに手を酷使していたせいで、さっきよりも手首の痛みは増している。


詩織「(あ、次移動だ。行かないと、)」



廊下を出たとき、ふいに痛めている方とは反対の手首を掴まれて。



真綺「詩織は移動するよりも先に行くとこあるでしょ」

詩織「え…っ、」



どこ行くの、と声をかけようにも、普段見ない真綺の真剣な顔に詩織は黙って足を進めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー


◇保健室


真綺「失礼しまーす」


真綺はガラッと扉を開けて声をかけるも、中には誰もおらず。

少しつんとした消毒の匂いが、その場に広がっていた。


詩織「(……もしかして、)」

真綺「先生いないけど…まあいっか。そこ座って」 

詩織「え、……うん」


そこ、とはベッドのこと。詩織は何が何だか分からないまま、言われるままに腰を下ろす。


真綺「はい、右手出して」

詩織「……やっぱり、気づいてたんだ」

真綺「…まーね」


そう言いながら、真綺はくるくると詩織の手首に包帯を巻きつけていく。


詩織「……ありがとう」


ふれられている場所が、あつかった。



真綺「会長って、なんか変なとこばかだね」

詩織「…っは?本当さっきから何言ってる、の……」


詩織が言葉を詰まらせた理由は。

痛めた手首に触れた、やわらかい感触のせい。


詩織「……っ」

真綺「もっと周り頼って、自分を大切にしろってこと」

詩織「でも、私生徒会長だし、むしろ頼られる方ーー」

真綺「詩織が自分を大切にしないのは、俺が許さない」


詩織「(……なに、もう)」


普段からかってくるくせに、

何考えてるか分かんないのに、


そんな真っすぐな瞳で、私を見ないで。



詩織「(いたいのか、あついのか、分からなくなりそう)」

  「わ、かったから……もう離して」


そう言ったのに、真綺はぜんぜん離してくれる素振りを見せない。

むしろ、もっと詩織に近づいて。


真綺「……今日はここ(保健室)で練習する?」

詩織「……っ!しない!」



なんて、色気たっぷりに言うものだから、詩織はもう限界に近い。


真綺「えーなんか最近忘れられてるような気がするんだけど……」

詩織「気のせいよ」



さっきまでの辛かった痛みは、いつの間にか引いていて。


どく、どく、と少し速まる鼓動の音が響くだけ。



私の手を壊れ物に触れるみたいに手当してくれた彼を見て。


なんとなく、もう少しだけここにいたいと思った。





< 9 / 9 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:1

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

甘い鎖にとらわれて。

総文字数/26,933

恋愛(キケン・ダーク)66ページ

表紙を見る
ふたりだけの秘密、甘いこと。

総文字数/17,680

恋愛(純愛)42ページ

表紙を見る
鳴りやめ、いつわり。

総文字数/0

恋愛(学園)0ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop