婚約破棄したい婚約者が雇った別れさせ屋に、何故か本気で溺愛されていました
18. 扉は優しく開閉してくださいませ
――あれから毎日のようにラングレー会長から面会のお取次をいただきましたが、全てお断りしております。
お手紙も度々届いておりましたが、封を切ることすらせずに机の上に置いたままにして、私はラングレー会長との関わりの一切を絶つことにいたしました。
親切でおしゃべりな侍女の言うところによると、モニクのところには相変わらずフェルナンド様が訪ねてらっしゃるようです。
けれどもモニクやお義母様がラングレー商会に御用があっても、会長はお忙しいとのことで従業員の方がお見えになって対応してくださっているとのこと。
「お忙しいなら私にもお手紙を下さったり、お会いになりたいなどと仰らなくても宜しいのに」
悪意はお有りにならないのでしょうけれど(意地悪な人ですわ)。
思わず零してしまった愚痴に、自分でも苦笑が漏れました。
自室の扉をノックする音が聞こえ、ブラシュール家に長らく仕えてくれている家令がお辞儀をした後に、声を掛けてきます。
一瞬またフェルナンド様がいらっしゃったのかと思い、たじろぎましたのは内緒です。
「ヴィオレットお嬢様、フォスティーヌ・モンジュ公爵夫人がお会いになりたいそうです」
フォスティーヌ夫人からの先触れを伝えにきたというのですが、これは珍しいことですわ。
「フォスティーヌ夫人が? どうなさったのかしら……」
いつもですとフォスティーヌ夫人の方からサロンやお茶会へお招きいただくことが多かったものですから、急な訪れに少し違和感を感じましたが、ともかくお招きしなければいけませんわ。
「フォスティーヌ夫人がいらっしゃったら、丁重にドローイングルームへご案内してね」
「かしこまりました」
家令は丁寧にお辞儀をしてから静かに優しく扉を閉めました。
なんだか最近は扉が壊れるほど激しく開いたり閉まったりすることが多かったですわねと、つい取り留めのないことを思ってしまいましたわ。