婚約破棄したい婚約者が雇った別れさせ屋に、何故か本気で溺愛されていました
31. 悪役令嬢にはならせて頂けませんでしたわ
「アルフォンス、ブラシュール伯爵まで弾劾して本当に良かったの? 彼はヴィオレットの唯一の肉親なのに……」
フォスティーヌ夫人が心配そうに、私とラングレー会長を見つめて口を開いてらっしゃいます。
「……ブラシュール伯爵は、ヴィオレットの生母マリーズ様に毒を盛り、徐々に弱らせて死に至らせたのです」
「……やはり……そうなのですね」
おかしいとは思って居ましたの。お母様はとてもお元気な方でしたのに、ある時期を境に急に弱ってしまって、そのままま儚くなってしまいました。
その時期は『加護を引き継ぐ者』であるお母様の加護が、『加護を得られる者』であるお父様へと移って数年、領内の大部分が豊かな地に変わりつつあった頃でしたもの。
「なんてことを……ああ、マリーズ……」
フォスティーヌ夫人は、レオナール辺境伯様に支えられながらも泣き崩れていらっしゃいます。
辺境伯様だって、怒りとも悲しみを堪えているとも取れる表情で震えているのです。
「ヴィオレット嬢、申し訳ありません。私はどうしても彼らを許すことが出来なかった。貴女が辛い思いをした日々が彼らに作り上げられたのだと思うと、然るべき罰を与えるべきだと考えてしまったのです」
クルッと振り向いてラングレー会長のお顔がやっと見られるようになりましたら、苦悶の表情を浮かべる彼のシルバーグレーの瞳には透明の雫が溜まっているではありませんか。
「ありがとうございます。彼らは犯してはならない罪を犯したのですから、然るべき罰を受けることが正しいことだと存じますわ」
いつの間にか優しかったお母様のことを思い涙が止まらなくなった私を、力強く抱きしめてくださっているラングレー会長は、私の心の痛みを分かち合ってくださっているのでしょう。
「貴女の母君は、私にもとてもお優しい方だった」
小さく震えるこの愛しいお方は、私の為に悪役になってくださったのですわ。