そして美しい雨に染まる
 五月十一日。

 今日は満面な青空に雲が一つもない、晴天だ。

 あぁ、今日も高澤雨音の涙は見れないのかぁ、と何処か寂しくなる。

 「高澤くん、この前のテスト満点だったの!?」

 「そうらしいよ、なんか意外だよね」

 「ねー、教えてもらいたいわ! あたしなんか赤点ギリギリ回避だよ」

 なんて、女子生徒の周りから高澤雨音の話題があちこちから出ている。どうやらこの前のテストで満点を取ったことで有名になったらしい。

 高澤雨音の机の周りには男女関係なく集まってきている。私も中学校では人気者だったのに、高校に入ってから何故か馴染めなくなっちゃったなぁ。

 「高澤くん、今度勉強教えてくれないかな?」

 「……俺が? いいけど」

 「やったぁ決まりね! ありがとう高澤くん!」

 クラスメイトの女子が高澤雨音と楽しそうに会話している。勉強を教えてもらうことになって喜んでいるんだ。

 ――いいな。そう思うと胸がぎゅーっと締め付けられるような痛みが走った。……信じたくないけれど、私もしかして嫉妬してるの?

 「何してるの、戸坂晴奈さん」

 「……高澤雨音こそ、何で話しかけてくるの?」

 「……戸坂晴奈さんが、いつもより悲しく見えたから。心配になって」

 やっぱり高澤雨音は本当に、ずるい人だ。

 すごく嫌な気持ちだったのに、高澤雨音の優しさで胸がいっぱいになる。

 「大丈夫なら、いいけど。ごめん、話しかけて」

 「……ううん、嬉しかった。ありがと、高澤雨音」

 そう言うと、高澤雨音はふっ、と少しだけ笑みをこぼした気がした。

 そういえば、高澤雨音が笑ったところなんて見たことがない。泣いているところばかり気にしていて、笑顔なんて言葉を忘れていた。

 高澤雨音ってどういうふうに笑うのだろう。どういうときに笑うのだろう。そんなことが気になってしまう。

 「高澤くーん、どうしたの?」

 「……別になんでも。じゃあまた、戸坂晴奈さん」

 高澤雨音のことを気にかけてしまって、そのうえ一緒に話している女の子に嫉妬してしまうなんて、やっぱり私は変わってるのかもしれない。
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