そして美しい雨に染まる
 五月十七日。

 また、ザーザーと鳴り響く雨が空から降ってきている。あいにくの天気だけど、高澤雨音とまた話せるということが嬉しい。

 「お疲れーっ、高澤雨音!」

 「……戸坂晴奈さん、お疲れ様」

 また窓外の景色を眺めながら、高澤雨音は一粒の涙を流した。

 あぁ、本当に理由が知りたくてうずうずしてしまう。どうすれば分かるのだろうか。

 「あれ、高澤くん? 何やってるの?」

 一人の女子生徒が、放課後私達しかいない教室へ入ってきた。

 ――前に高澤雨音に「勉強教えて」と言っていた女の子だ。

 「……きみこそ」

 「私は忘れ物取りに! でも嬉しいなぁ、高澤くんと話せるなんて」

 この子、絶対に高澤雨音のことが好きだ。女の勘だけど、きっとそうだと思う。

 それに高澤雨音に夢中になっていて、隣にいる私には眼中にもないようだ。

 「えっ、高澤くん泣いてるの!?」

 「これは、別に……」

 「ちょっと待って、ハンカチ出すね!」

 そう言いながら女の子はバッグのなかからハンカチを取り出していた。

 ――それよりも先に、私は持っていたハンカチを高澤雨音に差し出した。

 「高澤雨音、これ使って!」

 そう言ったけれど、高澤雨音は私のハンカチを受け取らなかった。

 「高澤雨音? 何で無視するの?」

 「はい、高澤くん! これ使っていいよ!」

 「……ありがとう。洗って返すから」

 「いいのいいの、遠慮しないで」

 ――どうして?

 さっきまで普通に話していたのに。私はこの子よりハンカチを先に渡したのに。

 何で、高澤雨音は私のこと無視するの?

 「……高澤、雨音。ひどいよ」

 高澤雨音はチラッと私を見たけど、何も言葉を発さないままだった。

 「高澤くん? どうしたの?」

 「……っ」 

 高澤雨音は何か言いたげな顔をしていた。

 でも、もう私の心が限界。高澤雨音と話せないのがものすごく虚しい。辛い。悲しい。

 「高澤くん……!? 大丈夫!?」

 途端にまた、高澤雨音は座り込んでしまい、涙を流していた。

 あぁもう、こんなの認めざるを得ないじゃない。

 アンニュイでミステリアスな雰囲気も。
 私のことを『戸坂晴奈さん』と呼ぶところも。
 雨の日、儚く美しい涙を流す姿も。
 
 全部、全部。高澤雨音のことが、好きだ。
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