そして美しい雨に染まる
 五月十八日。

 昨日の放課後、あんなことがあってから高澤雨音とは話せずにいる。

 ――私が高澤雨音に恋をしていることを、自分が気づいてしまったから。

 「……戸坂晴奈さん」

 「えっ、高澤雨音……!?」

 校門をくぐって歩いていると、高澤雨音が声を掛けてきた。

 もしかしてずっと、昇降口で私のことを待っててくれていたのだろうか。トクン、トクンと頭のなかで胸の音が響いている。

 「昨日は、ごめん。放課後話せなくなっちゃって」

 「……高澤雨音が私と話したくないのなら、別にいいよ。私も話したいなんて思ってないし」

 あぁ私はなんて思ってもないことを口に出しちゃうんだろう……。

 好きなのに、どうして素直になれないの?

 「……そっか。じゃあ戸坂晴奈さん、もうこの関係は終わりにする?」

 「この関係、って?」

 「雨が美しいことと、俺が雨の日だけ泣く理由を探す関係」

 ――そんなの決まってる。

 高澤雨音に寄り添いたい。高澤雨音の涙の理由を知りたい。

 「終わりにしないよ。雨のことを知れるまで、私は絶対諦めない。……さっきは、ごめん。昨日高澤雨音と話せなかったから、何か寂しかったの」

 そう言うと高澤雨音は目を見開いたあと、静かに瞳を閉じた。

 「俺も、戸坂晴奈さんがどうしてこんなに俺のことを知ろうとしてくれるのか知りたい。だからこれからもよろしく、戸坂晴奈さん」

 「……ん、もちろん。高澤雨音」

 ずるいよ。やっぱり高澤雨音はずるい人だ。

 私がどうして高澤雨音の涙と理由を知りたがってるかって……決まってるもん。

 私は高澤雨音のことが、好きだから――。

 「……戸坂晴奈さん」

 「ん? なに、高澤雨音?」

 「戸坂晴奈さんは、どんな未来が待っていようとも精一杯生きていける? たとえ残酷で、恨む未来が待っていたとしても」

 難しい、考えさせられる問いだった。

 でも私の気持ちは一択だけ。答えは決まっている。

 「精一杯生きていけるよ。私は太陽のように輝ける存在なんだから。だから高澤雨音は、雨ね」

 「……俺は、雨?」

 「そう、晴れに対抗する雨。真反対だけど、私を引き立ててくれる雨」

 「うん、俺らしいな。戸坂晴奈さんを輝かせる雨になる」

 私のことを戸坂晴奈さんと呼ぶ彼の姿は、やはり素敵だった。

 私よりも、輝いて見えた――。
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