そして美しい雨に染まる
 五月二十日。

 午前中は晴れていたけれど、午後になってから雨が降りそそいでいる。

 やった、高澤雨音と話せる! 誰にも気づかれないように、小さくガッツポーズをする。

 「高澤雨音ーっ!」

 「戸坂晴奈さん。雨なのに元気だね」

 「へへ、高澤雨音と話せるからね。私は元気になれるよ」

 「……やっぱり俺と違って、戸坂晴奈さんはすごいな」

 高澤雨音は雨を見ながら、静かに涙をこぼす。

 高澤雨音の涙があまりにも美しく、しばらくは目が離せなかった。

 「ねぇ、高澤雨音。今日は外で話さない?」

 「……外で?」

 「雨を間近で見たほうが何か分かるかもだし。ね?」

 そう言って私は強引に高澤雨音の手を引き、昇降口を出た。

 あまり強くはない、小粒の雨の音が校舎に響いている。

 「高澤雨音と初めて話したのって入学式だよね?」

 「……そう、だね。入学式が終わった、放課後」

 高澤雨音は他人のことには興味がない、というオーラが漂っているのに、私と初めて話した日のことは覚えているんだ。

 ――入学式が、何か関係しているの?

 「私さ、あの日傘を持ってなかったことに気がついて教室戻ってきたんだけど、何か忘れてる気がするんだよね」

 「……気のせいじゃないかな」

 高澤雨音の返答が、いつもよりも間が空いていた。

 予測だけど、やっぱり入学式の日のことが関係しているのかもしれない。

 「高澤雨音は、雨が美しいって思うんだよね?」

 「うん、そう思う。すごく美しいって思ってる」

 「じゃあなんで嫌いになっちゃったの? 美しいのに嫌いって思ってる、その高澤雨音の気持ちはなに?」

 高澤雨音は少し黙ったあと、再度口を開いた。

 「――その理由は、戸坂晴奈さんが見つけて。太陽のように輝く、戸坂晴奈さん」

 「……やっぱり大嫌いな雨に染まってる高澤雨音は、ずるいなぁ」

 高澤雨音は僅かだけど口角をあげて、目を細めた。

 高澤雨音の笑った顔を見るのは初めて。またひとつ、高澤雨音のことが知れた気がした。

 好きな人のことは何でも知りたいって思う。こういう気持ちが恋なんだなと実感した。
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