そして美しい雨に染まる
 【入学式】と大きく立ててある看板。

 大粒の雨が空から降り注ぎ、生徒が走って帰宅している姿。

 傘を持っていない、一人の女子生徒がそのまま道路へ飛び出す。

 ――これは、私?

 「ねぇ、猫が道で寝てない?」

 「えっ、向こうからトラック来てるよ」

 白い子猫が道路の真ん中で座りながら寝ている。

 そうだ、こんな光景、私見た気がする。

 「どうしよう轢かれちゃうよ……!」

 「誰か助けてあげて!!」

 数人の女子生徒が大声を張って助けを呼んでいるけれど、男子生徒は見て見ぬふり。

 もう間に合わない……轢かれちゃう。

 誰もがそう思っただろう。だけどその瞬間、急いで子猫を拾い上げた生徒がいた。

 ――私だ。
 
 「きゃぁぁぁぁ!!!!!」

 「だ、誰か呼んでこなきゃ……!」

 「血やばいよ」

 子猫を拾い上げた私は、すぐ目の前に来ているトラックに気づかず、はねられてしまったんだ。

 やがて救急車のサイレンの音が聞こえてくる。これが意識のあるなか私の聞いた、最後の音だった。


 「晴奈、晴奈……!」

 「晴奈、目覚まして……」

 今にも消えてしまいそうな、か細い両親の声。

 病院のベッドで眠っている私の姿。

 「晴奈はなんで……、自分の命よりも猫を優先したの……っ」

 「晴奈はそういう優しい子だったじゃないか。それにお医者さんは脳に少しだけ損害があって、生きているのは奇跡だって。大丈夫、きっと目を覚ますよ」

 「うん……っ」

 ずっと涙を流しているお母さんと、お母さんに寄り添っているお父さん。

 「お母さん、お父さん!! 私、ここにいるよ……!」

 そう問いかけても、二人に反応は無かった。

 気づいてよ……お母さん、お父さん。どうして、どうしてこんなに心を痛めつけられるの……?

 「これは――夢だよね?」

 ねぇ、誰か夢って言ってよ。信じたくない、ううん、信じられない。

 「高澤雨音……っ」

 高澤雨音の声が聞きたい。高澤雨音に会いたい。

 雨が美しい理由を知りたい――。
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