エフェメラ

　当日は、何を着て行けば良いのかわからず、薄い紺色のスーツに茶色と青色のストライプ柄のネクタイというフォーマルな服装を選んだ。
　地下鉄と山手線を乗り継いで、上野駅から特急に乗った。九時半に差し掛かる頃、水戸駅に着いた。緊張のせいで改札口に行くことができず、駅のホームの待合室で時間を潰していた。
　娘の顔を見てももう誰なのかわからないかもしれない。
　娘は、俺の顔を覚えているだろうか。
　そんなことを考えていると、腕時計の針は九時五十分をさしていた。
　緊張しながら、待合室から出て、改札口へと向かう階段を上る。電車から降りてきた人の波に紛れながら、特急券と乗車券を改札に通した。改札の前で待っているであろう娘を探すことはせずに、足元を見て歩いていた。
　改札を抜けて、意を決して顔を上げると、どこに娘がいるのかわからなかった。その日は地方の特産品のバザーが開かれていて、改札前の視界も悪かった。