エフェメラ
「お父さん?」
 元妻のような声が聴こえて、頭より先に身体が振り向いた。
「あ、あやめ、久しぶり」
 久しぶりに、六年ぶりに娘の姿を見た。
 嬉しかったけれど、手紙の文面から想像するような素朴な娘とは違っていた。
 ボブヘアーだった髪は、肩甲骨の下くらいまで伸びていて大人っぽく見えた。束髪ではないほどけた長い黒髪は、凛としていて艶やかだ。垂れた目尻は昔と変わらないものの、自然なアイメイクが施されている。
 ベージュ色のニットと薄灰色のアウターに、紺色のロングスカートもよく似合っていて、雰囲気が小綺麗に見えた。身長もうんと高く見える。足元には赤いハイカラなブーツを履いていて、それがなんだか悲しくなった。
 きっともうマジックテープの靴なんて履かないし、小洒落たブーツを履くような年齢になってしまったのだと思った。俺は娘の足のサイズを知らない。靴が入らなくなっていく瞬間も全て元妻に任せっきりだった。急にそういうことを思い出した。
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