アンニュイな偽カレに、愛され注意報⚠︎ (短)
「さっきの声、時瀬くんじゃなかったー?」
「えー、んなわけ。だって女ものの傘をさしてるんだよ?時瀬くんは今フリーで彼女ナシじゃん。誰に女物の傘を借りるっての?」
「でもなぁ〜」
じゃり、じゃり。と。
女子の足音が、こちらに近づいているのがわかる。
でも、この状況を理解したくない私がいた。
だって困るよ!時瀬くんと一緒にいるのが、こんな平々凡々な私だなんて!万が一見つかれば、女子からの目が怖くて明日から学校に行けないよ!
「に、逃げよう!時瀬くん!」
「……」
ヒソヒソ声で話すと、時瀬くんは足音のする方向を目で追った。と同時に、女子たちが「あの」と。私たちの傘に向かって声をかけた。
すると、その瞬間。
「え、わ!」
ぎゅっと。時瀬くんは私の体を引き寄せ、そして優しく抱き止めた。もちろん私たちだってバレないように、傘で姿を隠しながら。
「と、とととと…っ」
「静かに」
驚きと照れで硬直してしまった私の手から、折りたたみ傘は簡単に離れ、地面へ落ちる。カシャンという音は、この場の現実味を倍増させた。