アンニュイな偽カレに、愛され注意報⚠︎ (短)
2人きりの教室
「(あ)」
放課後、誰もいない教室で。
現実味のない時瀬くんは自分の机に座って、降り始めた雨に目をやっていた。
「雨か……」
時瀬くんは、重たいため息と共に独り言を呟いた。私は心の中で「うんうん」と頷く。どんよりしたくなる気持ち、よく分かる。
でも仕方ない。梅雨だもん。
一体いつまで降るのー?なんて言葉が飛び交うのも、雨季にはよくあることだ。
「(時瀬くん、雨が嫌いなのかな)」
ロッカーの中身を整理する振りをしながら、ちらりと時瀬くんを盗み見る。そして少しだけ驚いた。
なぜなら、いつも女子の隙間から見ていた笑顔は今は消えていて、どこか哀愁が漂っていたからだ。
「(こういうのを、なんて言うんだっけ。
ああ、そうだ。アンニュイだ)」
こういう「しっとり」した雰囲気の時に使う言葉。
でも、アンニュイって……なに?
これ!っていうハッキリした意味までは知らないなぁ。
そう思うと気になって、帰る支度をしながら電子辞書を取り出す。すぐにアンニュイを打ち込み、Enterキーを押した……つもりだった。
だけどキーの押しどころが悪かったのか、間違えて「発音」キーを押してしまう。すると女性が流暢なフランス語で「ennui」と発音した。