アンニュイな偽カレに、愛され注意報⚠︎ (短)
「あ」
しまったー!
慌てて電源ボタンを押すも、静寂を切り裂いた音を誤魔化せるわけもなく。
ガタンと音がしたかと思うと、机から降りた時瀬くんが、驚いた顔で私を見つめていた。
「(ひぃ!)」
なかったことにしようと、そそくさとカバンを肩に掛けて教室を出ようとする。だけどカバンの紐をクンッと引っ張られたため、私の体は止まらざるを得なかった。
「(でも引っ張られるって、誰に)」
なんて思ったところで。
教室にいるのは、私を含め、たった二人。
ならば、答えは決まってる。
「な、なんの用かな。時瀬くん」
「……」
無言で私の後ろに立ち、私のカバンを引っ張る張本人。時瀬くん。
引っ張ると言っても、彼がカバンの紐に掛けている手は、たったの二本。それだけでも簡単に私の動きを封じるあたり、やはり男子特有の力を感じる。
「さっきのさ」
「え、うん?」
しまった。マジマジと時瀬くんを見つめてしまった。
すぐに目をそらすと、時瀬くんもパッと紐から手を離した。
次に少し顔を斜めにして、私と視線を合わせるように背中を曲げる。そして、私をまっすぐ見つめる。
最後に。もう一度、さっきと同じことを言った。
「さっきのってさ、俺のこと?」