アンニュイな偽カレに、愛され注意報⚠︎ (短)
「(あ、しまった)」



慌てて自分の口に蓋をする。

だって一般人のカテゴリに分類される私からしたら「付き合う」なんてゴールは遠すぎて。

努力と頑張りを重ねないと、少女漫画のような幸せな世界に浸れないかと思うと……時瀬くんの備わったイケメン素材は、羨ましい他ない。


と言っても、それを口に出すのは良くなかった。

第一、彼は傷心中なわけだし。もっと言葉を選ぶべきだったな。



「ごめん、忘れて。全然ちがうことを考えていただけだからさ」

「その言い訳を、俺が信じると思ってる?」

「しょ、」



正直なところ、あまり……。

すると時瀬くんは「へぇ振られた俺を〝羨ましい〟ねぇ」と、片方の手をポケットに突っ込んだ。

普段のニコニコキラキラな彼からは想像もできない粗雑な態度に、少しだけビックリする。


だけど本当にビックリするのは、ここからで。
時瀬くんは、もう片方の手を自身の胸にあてた。



「傷ついたなぁ」

「へ?」

「さっきの言葉、ココに刺さったって言ってるの」

「(と言われましても……)」



ココ、と言った時。
胸にあてた手を、トントンと動かした時瀬くん。

その表情、まさにアンニュイ。儚げだ。
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