余命2年の王子様
麻里亜は、ある資格を勉強してた。栄養管理士だ。
彰にもし、手料理を食べてもらう機会があったら、なるべく胃に負担をかけない
優しくて栄養満点の手料理を食べてほしいと思ったからだ。
ななみと一晩一緒にお泊りをして、退職して、栄養管理士の資格を生かした仕事へ転職する決断が
ついたのだった。

カレンダーを見ると9月。
まだまだ残暑が厳しい。最近、地球温暖化が進み、日本の気温もおかしい。
春と秋はもうないんじゃないかと思ってしまう。
少し休憩と思い、ペンを置いて、冷蔵庫にあるゼリーを取り出し、スプーンをもって
テレビをつけた。

『(彰と会ったの、先月の8月。病院でプチ縁日あるからおいでって言われて行ったなぁ)』

そう、それは、先月の8月中旬。
お盆休みが始まったころ、彰から【今度、病院でプチ縁日あるんだ。麻里亜もおいでよ】と電話が来た。
【私が来てもいいのか?】と聞いたら、【看護師さんから彼女さんもお誘いしていいよって言われた。】って
返事で顔から一気に火が出た。

縁日に行ったとき、彰と二人で射的をしたり、かき氷を食べたり、花火をしたりしたなぁ。
意外にも彰は、射的がすごくうまかった。私がかわいいなって思ってたウサギのぬいぐるみを
一発で取ってくれた。それは、今もベッドの上にある。
彰からもらった大事なプレゼントだからだ。寂しいとき、会いたくてたまらないとき、いつも
ピンク色のウサギのぬいぐるみを抱きしめてる。

あの時の彰の笑顔がすごく眩しかった。麻里亜は、ますます会いたくなった。

『ちょっとメッセージ入れてみよう。』
スマホを握って、【寂しいな。会いたいな】と送った。
重い女だと思われたら、どうしようと思った。
いくら彰が優しいからって、これは、ないなと感じた麻里亜だったが、後悔しても遅い。
送ってしまったのはしょうがない。

テレビのニュースで赤ちゃんが車の中で置き去りにされて熱中症になって死亡したというニュースや
高齢者の暴走事故だったりなどの暗いニュースが続き、麻里亜は、録画したドラマを見ることにした。
最近は、刑事ドラマ『派手なふたり』がお気に入り。
刑事らしくない、大胆な行動をとる二人の男性刑事が数多くの難事件を解決するというミステリードラマだ。
視聴者層は、60代の女性に人気だが、近年は、若い女性視聴者も増えてきたと話題になってた。
今作でシリーズ第5作目を迎える大人気ドラマだ。

録画した第5話は、密室殺害事件だ。麻里亜は、じっくりと推理を楽しんでた。
実家にいたころは、先に見てた母に全部ネタバレされて、最悪な想いばっかりしたものだ。

『(今回は、あの女が怪しいな)」

いかにも動揺してる、50代のセレブ妻は、『私があの男殺すなら密室じゃなくて大胆にやるわよ!』と
言ってるが、50代の人気俳優が演じるベテラン刑事に嘘は通用するはずもないので、今回も無事に解決した。
動機は、自分のお金の使い方にケチつけられたからだという。

見終わって、録画した内容を消して、テレビを消して、再び資格の勉強に取り掛かった。

ーーーーーーーーーー

気分転換に外を散歩することにした麻里亜。
スーパーでサラダとお惣菜買おうとしたら、ビジネスホテルからななみとかわいい双子の女の子が出てきた。
ちょっと声かけようか迷ってたら、ななみから声がかかった。

『麻里亜~!』
『ななみ、どうしたの?どうして、ホテルに?』
『今、夫と別居中~。夫と離れてるとすごく気が楽!紹介するね。双子の姉妹のたまきとほまれ。
ほまれがお姉さんでたまきが妹だよ。』

双子姉妹は笑顔で『こんにちはー♩』と言った。私も挨拶を返した。

『ちょっとそこのケーキ屋さんでお茶しない?』
『そうだね』
たまきちゃんとほまれちゃんは、『ケーキ!ケーキ!』と大合唱して、大喜びだ。

お見せに入ると、さっそく双子は、『ママ!たまき、このイチゴが乗ってるやつ!』
『ほまれ、チョコー!』とはしゃいだ。
『コラコラ!走るな!ほかのお客さんにぶつかったり、商品に当たったら、大変だよ!』
ななみは、母親としてしっかり双子を躾する。

『私、ミルクレープにしようかな』
『じゃあ、私は、アップルパイ。すみません。イチゴショートとチョコレートケーキお願いします。
飲み物どうする?』
『私は、カフェラテ』

たまきちゃんとほまれちゃんは『オレンジジュース!』とハモった。双子ってすごいなぁと
麻里亜は驚いた。

席について、さっそくななみは、麻里亜に報告した。
『なかなかあの人、離婚に頷いてはくれないの。』
『そっか。智さんは?』
『智さんは、ばっちり証拠があるから言い逃れは、できませんよって言ってくれてるんだけど。
私は、離婚したら、養育費と慰謝料さえ払ってくれたら、もう2度と会わないで済むんだけど。』

ビジネスホテルでホテル暮らししてるらしい、ななみ親子は、金銭的に厳しくなってきたらしい。
麻里亜は、大胆な提案をする。

『じゃあ、ウチにしばらく泊まる?ほまれちゃんとたまきちゃんのおもちゃさえあれば大丈夫だけど』
『えぇ?迷惑じゃない?』
『大丈夫。私、独り身だし。ななみたちは歓迎するよ。』

ほまれちゃんとたまきちゃんは、『お姉ちゃんのおうちにお泊り?』『やったー!』と喜んだ。
二人とも口の周りは、ケーキまみれだ。
ななみは、『もうお口をふかなきゃ』と口をふいてあげる。

『お言葉に甘えて、麻里亜の家にお世話になるよ。お世話になった分の家賃は、働いて返すから。』
『わかった。』

麻里亜たちは、ケーキを食べ終えて、ななみは、さっそくビジネスホテルに事情を話し、荷物を持って
家にくるという。
おもちゃは、どうやら別居するときに持って出たため、大丈夫だそうだ。
麻里亜は、スーパーでさっそく4人分の夕飯を買い出しに行った。
今日は、子供が大好きなハンバーグにしよう。

スーパーに行くと、『あら?麻里亜ちゃん』と聞き覚えのある声がした。
振り返ると、志保さんだった。

『あ、志保さん!お久しぶりです。』
『久しぶり。どうしたの?そんなに買い込んで。』
『あ、友達が子供と一緒にお泊りに来るんです。だから、その材料』
『そうなの。それは、楽しみね。』

志保さんは、彰について話してくれた。

『最近、体調が悪化して、しばらく集中治療室に入ることになったのよ。』
『え・・・』
『大丈夫よ!彰なら絶対また普通の病室に戻ってくるから!』
彰によく似た笑顔で言ってくれた。

だからなのか、返事がなかったのは。最近、会いに行ってあげれなかったことに
思い切り後悔した。

『じゃあね。』とお互い手を振って、会計を済ませて、自宅へ帰ると自宅前にななみ親子が待ってた。

『ごめんね!知り合いに会ってちょっと話し込んじゃって』
『大丈夫よ。ほら、二人とも。お姉さんにお世話になりますって挨拶しなさい。』
『『お世話になります!麻里亜お姉ちゃん!』』

元気でかわいい双子ちゃんに私は、思わず癒された。
玄関を開けて、双子は、さっそくきゃーきゃー走った。ホテルの部屋は、狭くてストレスが溜まってたのだろう。
きゃっきゃっとじゃれあう姉妹に私もななみも頬を緩めた。

『ありがとう。麻里亜に助けてもらってばっかりで。夕飯作るの、手伝うよ。』
『大丈夫だよ!一緒においしいハンバーグ作ってあげよう!』
『たまきとほまれ、大好きなの!じゃあ、さっそく作りましょう!』

双子姉妹は、夕飯がハンバーグと聞いて、さらにはしゃいだ。
あまりのはしゃぎっぷりにななみから怒られたのは、言うまでもなかった。

麻里亜は、これからしばらくにぎやかになるのが嬉しくてたまらない反面、彰のことが心配という気持ちの反面で
いたのだった。




< 14 / 19 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop