余命2年の王子様
ななみから成立が決まったと聞いて、よかったと安心した。
ななみによると慰謝料も養育費もきっちり払ってくれるという。

「智さんから連絡をもらって、本当に安心した。私は、今月で九州の実家に帰る。
双子の保育園も決まったし、私も保育士として復職が決まったの。」
「よかったね!」
「うん。だから、今月中には、前、お世話になった幼稚園に顔出しに行こうと思う。担任してた
子供たちも今、6歳くらいだから、会っておきたい」

麻里亜は、ななみらしい決断に笑みが浮かぶ。
ななみは、双子を連れて、九州へ帰るんだ。これでもっと幸せになってほしいと心から願った。
「お世話になった分の光熱費と家賃、給料でしっかり払うから、口座番号教えて」
「そんなのいいのよ」
「ダメ。タダでお世話になってたなんて恥ずかしくて言えない。きっちり麻里亜に返すからね。」
「うん。無理しないでね」

あと1週間でななみと双子は、九州へ帰る。お見送りしなきゃなと考えた麻里亜だった。

ーーーーー

会社では、今日、莉央の最終出勤日だ。
麻里亜は、莉央にお手紙とお菓子を持った。たくさんたくさんのありがとうを詰め込んだ。

「麻里亜、4年くらいの付き合いだったけど、ほんとうにありがとう。」
「ううん。莉央も北海道に帰っても無理しないでね。」
「私、介護しながら、地元で事務職やるんだ。大事な親だからさ、やるんだけどね。」

麻里亜は、ここ最近、友人たちの新しい旅立ちと共に新たな不安がめぐった。
彰の余命があと半年なのだ。
あと半年で彰と何ができる?と考えと不安がぐるぐるとする。

そんなことをぼーっと考えてるうちに夕方になり、莉央のお別れ会を開くことに。

居酒屋で数人集まり、「退職おめでとう」と「元気でね」と飛び交った。
莉央は、部長から花束と餞別をもらって、涙を浮かべた。
私も渡さなきゃと麻里亜は、莉央の元へ行った。

「莉央、これ、私から。近所にある人気洋菓子店のワッフルと手紙が入ってる。」
「え~!麻里亜、ありがとう。私って愛されてるなぁ」
「あのさ、たまに、莉央に会いに行ってもいい?」
「いいよ!歓迎する!北海道名物、たくさん紹介してあげる!」

私たちは、抱き合って、別れを惜しんだ。

ーーーーー

ななみと双子姉妹が明日、九州へ帰る前日、私たちはお寿司屋さんで食べることに。
回転寿司は、双子も大好きらしい。たまきちゃんは、まぐろだけは、苦手だがそれ以外の
お魚は大好きと聞いた。

「ねぇ。ななみ。担任してた子たちと会えた?」
「会えたよ。みんな「ななみ先生~!」って来て、大きくなっててびっくりしちゃった。
園長先生に私は、九州の幼稚園に復職します。って伝えたら安心してたよ。」
「会えてよかったね!」

ななみは、嬉しそうにうなずいた。

「ままー!おさら5まいいれると、みにげーむできるって!やっていい?」
「いいよ。当たるかな?」
「うん!」
今、来てる回転寿司は、大人気アニメ「ちいから」とコラボしており、ミニゲームで当たると
ストラップ、キーホルダー、マスキングテープ、マスコットのいずれどれかがもらえるらしい。
たまきちゃん、ほまれちゃんが今、夢中になってる。

当たりの声が響き、ほまれちゃんが大喜びした。
「やったー!あたったー!」
出てきたカプセルとななみにあけてもらうと、くろねこのキーホルダーだった。
「はい。まりあおねえちゃんにあげる!」
「え?」

せっかく当たったのに私がもらってもいいの?と思ってると
ほまれちゃんは
「まりあおねえちゃんにありがとうのぷれぜんとだよ。これを見たら、たまきとほまれのこと
おもいだしてほしいの」
「ありがとう。大事にするからね。」

明日なんて来なければいいのにと思ってしまうくらい、すごく寂しい。
子供がいる生活は、想像以上に楽しくて、幸せだった。
もちろん、ななみのごはんはおいしかったし、いつも散らかってしまう部屋も常に綺麗にしてくれて
ありがとうしかない。

その後、たまきちゃんもチャレンジしたが、外れてしまった。
へこんでしまって、店の入り口にあるガチャガチャをやらせてあげるとななみになだめられた。

ーーーーー

別れの朝

ななみとたまきちゃん、ほまれちゃんは、荷物をまとめて、九州行きの飛行機に乗るため
早めに空港へ行くことに。1週間前に飛行機のチケットを予約したのだ。
麻里亜は、お見送りのために一緒に家を出た。

空港は、土曜日とあってか、家族連れでにぎわってた。

「麻里亜、本当にありがとう。両親もたまき、ほまれと一緒に暮らせるの楽しみにしてるんだ。」
「よかったね。私は、あれから栄養管理士に合格したよ。」
「おめでとう!」
「それで私、来月で退職するんだ。退職したら次は、ドラッグストアに再就職しようと思う。
たくさんの命を支えたいと思ってね。」

ななみは、静かに微笑みながら「麻里亜なら絶対できる!」と言ってくれた。
九州行きのアナウンスが鳴り、そろそろ旅立つ。

「じゃあ、行くね。たまき!ほまれ!行くよ!」
キッズプレイランドで遊んでた双子を呼ぶ。
「麻里亜にバイバイしようね。じゃあ、麻里亜、落ち着いたらまた会いに来るからね!」
「まりあおねえちゃん、また会おうね!」
「ありがとう!おねえちゃん!」

麻里亜とななみたちは、思い切り手を振った。姿が見えなくなるまで。

ーーーーー

智さんから久しぶりに連絡が来た。
「今度、彰が外泊するんだ。1泊2日。」
「そうなんだ。また志保さんのところに泊まるの?」
「いいや。今回は、麻理亜ちゃんとこに泊めてあげようってなって」

今、なんて言った?私の家?
一瞬、固まったが、智さんは続ける。

「たまには、恋人らしいことさせてあげようっておばさんと話し合ったんだよ。
気分転換にもなるって思ってさ。明日の朝から明後日の夕方まで頼みたい。
いいかな?」

麻里亜は、考えた。彰には、もう時間がない。
これを逃したらもう次は、一生ない。
だったら、返事はひとつしかない。

「いいですよ。明日と明後日、私、有休なのでOKです。」
「そっか!ありがとう!彰も喜ぶよ。」

そう言って電話を切った。
緊張する。彰が来る。遊びにじゃない。泊まりにだ。
異性を家にあげたことがないの。
麻里亜は、緊張して一睡もできそうになかったのだった。

ーーーーー

麻里亜は、朝から緊張した。智さんから迎えに来てもらい
彰と一緒に私の家に行くのだ。
おしゃれをして、マンション下で待ってると、久しい車が来た。

「久しぶり!麻里亜ちゃん。」
「お久しぶりです。あの、友人のななみがおせわになりました。」
智さんは、一瞬、しかめっ面になったが、すぐに「あぁ」と言った。
「大丈夫だよ。あの元旦那、なかなか離婚に応じる気ないって言うからさ、手ごわかったよ。
最終的に裁判にしてもいいですよ、どの道、あなたは、負けるだけですよって言ったら
素直に離婚に判を押したよ。最初から素直に判を押せばよかったのにな。」

麻里亜は、「それ、半分、脅迫になりかねないような・・・?」と思った。
そのあとすぐ車の中の雰囲気が変わってることに気づいた。
「あの、車、ずいぶんと雰囲気変わったんですね」
「あぁ・・・。俺、結婚したんだ。玲子と」

麻里亜は、このあと驚いて、智から「相変わらず面白い感情してるなぁ」と笑ったのだった。



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