余命2年の王子様
病院へ着くと彰は、すでに待ってた。智は「会計してくるからな」と言って会計に向かった。

「久しぶり」
「久しぶり、彰。」
「おばさんと兄貴から聞いたんだけど、一晩だけど、ごめんね」
「ううん。大丈夫。」

すごく久しぶりに会ったので、初めて会った時のようなときめきを麻里亜は、感じてた。
彰もすごく緊張してた。メッセージや電話でやり取りしてた時は、そんなこと感じなかったけど、ほのかに頬が赤かった。

「よし。会計終わったぞ。さっそく、麻里亜ちゃん家へ行くぞ。」
「わかった」
麻里亜も「はい!」と元気にうなずいた。

車の中、麻里亜は、さっそく智に結婚について聞いた。

「あ~。俺も仕事落ち着いたから、玲子にプロポーズしたんだよ。お前の一生を守るボディーガードに
してください。って言ったら、泣いてOKだった。」
「素敵じゃないですか!」
「兄貴、結婚したのか?聞いてねぇぞ!」
「聞かれなかったもん(笑)」

そのあとの車中は、すごく楽しかった。智さんと林さんが結婚か・・・・。
麻里亜の中で「結婚」という2文字がよぎったが、もう彰との時間は、少ない。だから、結婚は、絶望だろうな。
麻里亜は、静かに諦めたのだった。

「じゃあ、麻里亜ちゃん、彰をよろしくな。彰、明日の昼に迎えに来るからな。」
「わかった」
「ありがとうございました。」

軽く挨拶をして、麻里亜は、彰をマンションの部屋まで案内したのだった。

「ここだよ。」
麻里亜は、彰を部屋に案内した。

「綺麗だね」
「これでも頑張って掃除したの。好きな番組見てていいよ。」
「ありがとう」

私は、彰に夕飯のメニューを考えていた。
せっかく栄養管理士の資格取れたんだ。活かせるチャンスだと思った。
サラダは、絶対作ろう。あとは、減塩のお味噌汁。具は、野菜中心にして
白身魚と焼き鮭にしてあげよう。

麻里亜は、一生懸命、彰が食べられるメニューを勉強した。
自分の手料理がまずかったり、塩分が多かったりしたら、恥ずかしいからだ。

「ねぇ、麻里亜。何か手伝うことある?」
「ううん。大丈夫。ありがとう。ゆっくりしてていいのに」
「いや、ただ、黙って見てるだけじゃ申し訳ないからさ。」
「そんなことないよ~。」

麻里亜は、申し訳ないと思いつつ、ごはんをついでもらうことをお願いした。
今日は、白米にした。玄米は、消化が悪いと勉強したのだ。
普段の麻里亜は、玄米と白米を一緒に炊いたブレンド米を食べるのが好きだが、彰のために
白米だけにしたのだ。

そして、できあがった。
メニューは、ほうれんそうの白和え、減塩みそ汁、白身魚のみそ焼き、白米である。
白身魚のみそ焼きは、麻里亜の母の得意メニューであり、麻理亜自身も大好きな味だ。
白身魚を味噌で焼いたシンプルなものだ。

二人で食卓を囲む。

「「いただきます。」」
麻里亜は、変に緊張してた。もしも彰と結婚できたら、新婚生活はこんな感じでドキドキするのだろうか。
「麻里亜、このみそ焼き、すごくおいしいよ!」
彰が笑顔で「おいしい」と言ってくれた。初めての手料理、大好きな彼に「おいしい」って言ってもらえて
心から幸せだ。

食後は、ふたりで仲良く片付けた。麻里亜は、頭の中で「もしかしたら、二人で一緒に夜過ごせるのは一度きりかな」と
いう不安にかられていた。
あと半年、あと半年という彰の命の時間がなくなる。
麻里亜は、考えすぎたせいでお皿を割った。

「きゃっ!」
「大丈夫?!すぐばんそうこうはらないと!」
「平気。ちょっと、ぼーっとしてただけだから・・・・」

彰は、焦った様子で「ばんそうこうは?」と聞いてくるので「テレビ台の下に救急箱ある」と教えた。
考えすぎだ。先のことを考えすぎた自分が情けない。
今は、彰と過ごす目の前の時間を考えなければならない。

「はい。できたよ。大丈夫?」
「ありがとう・・・。」

彰は、微笑んで「よかった」
落ちた食器の破片を彰が丁寧に片づけてくれた。祖母が教えてくれたらしい。
「僕は、両親を海の事故でいなくなってから不幸だなと思ってた。麻里亜と出会ってからこうやって付き合えて
幸せになっていいのかわからなかったけど、今、言える。幸せだよ。」
「ありがとう。彰。私も幸せだよ。」

お風呂に入って、彰と二人で寝ることにした。
入院生活中もこうやって毎日一緒だったのを思い出す麻里亜は、彰と出会ってから今までを思い出した。

「彰」
「何?麻里亜」

彰は、気を使って麻理亜のベッドの下で布団を敷いてもらって寝てる。
「彰があと数か月でいなくなると思うと私、私・・・・」

”寂しくてたまらないの”

この言葉が言えなくて、泣いてしまった。
会社も辞めて、栄養管理士の資格を取って、次の就職先見つかるまで不安もあるが
彰がいるからこそ不安はないのだと麻里亜は、感謝してる。
でも彰がいなくなったら、生きていく意味がないと思ってしまう自分がいるのだ。

「麻理亜。僕は、十分幸せだよ。あのね、一つだけ約束してほしい」
彰は、起き上がって、麻理亜と二人でベッドに座って話した。
「僕が死んでも麻里亜は、僕以上に素敵な人と幸せになってほしい。約束できる?」

できるわけない。彰以上に優しくて素敵な男性、もう出会えるはずがない。
麻里亜は、嗚咽しながら「でも・・・できないかも」という。
彰は、困ったなぁとつぶやきながら、次にこう言葉をかけた。

「じゃあ、ずっと笑って生きててほしいな。これなら約束できる?」
「うん。約束する。」
「僕が恋しいからって追いかけてきちゃダメだよ。笑って生きるんだよ。泣いてばっかだと
僕、安心して麻里亜を見守ることできないよ。」

彰は、優しく麻里亜の背中をさすって、優しく抱きしめた。

「ありがとう。麻里亜。愛してるよ。」

お互い優しく口づけした。きっと最後になるかもしれない口づけは、涙でしょっぱかった。

翌朝、彰は、病院へ帰った。麻里亜は、智の車に乗り込んでいく彰を見送った。
「私、頑張って笑って生きる。絶対に。」

そう心から誓ったのだ。

次の職場の内定をもらったのは、給食センターだった。麻里亜は、栄養管理士の資格を生かせると
思って、頑張ろうと誓った。
そして友人や母親に転職先決まったことを報告した。
もちろん彰にも報告した。

1週間後に来てほしいと連絡ももらった。麻里亜は、おいしいごはんで笑顔になってもらうためにも自分が頑張らねばと
ますます身を引き締めたのだった。

テレビのニュースを見ていると、とんでもないことが目に入った。
「結婚詐欺の疑いで逮捕されたのは、宮野亜弥容疑者」

なんと、自分が入院してた時、お世話になったあの宮野さんが詐欺で逮捕されたというニュースだった。
本人は「男と付き合ってたのは、事実だが騙すつもりはなかった」と否定してるらしい。
辞めたとは聞いたけど、まさかと驚きで開いた口がふさがらなかった。

「人って見た目によらないんだな・・・・」
麻里亜は、そう呟いてテレビを切った。
そして、昼を食べて、久しぶりに莉央に会うためにメイクをした。

莉央は、実家の北海道で親の介護しながら働いてると聞いた。
現在は、どうしてるんだろうかと気になってた。待ち合わせのカフェですでに莉央がいた。

「麻里亜~!久しぶり!」
久しぶりに会う莉央は、とても綺麗になってた。
「久しぶり!親御さん、大丈夫?」
「うん。施設に入れることが決まったから、私も時間に余裕できたの。今は、北海道でアパレル店員やってるよ。」

だから、綺麗になったんだ。莉央。
麻里亜は、とても感心した。たまに電話もしたが、親の介護に愚痴一つこぼさなかった。

「私は、来週から給食センターに務めるんだ。」
「すごーい!麻里亜、頑張って資格取ったもんね。」

麻里亜は、笑顔で「ありがとう」と言って、久方ぶりに会う同僚との時間を楽しんだのだった。


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