余命2年の王子様

#07「ありがとう。彰」

あれから麻里亜は、新しい職場で充実した日々を送ってる。
自分が考えたメニューが採用されたりととても嬉しいことがあったりすると
彰にメールを送るが、もちろん返事は最近来ない。
体調が悪いのだろうとわかりきってた。

でも2週間返事が来なくて、不安になってきた。
そんな矢先だった。麻里亜のスマホに「柚木智」の文字が光った。
電話に出ると智が「麻里亜ちゃん」と言った。

「どうしたんですか?」
「彰の容態が急変した。今から玲子と一緒に車で迎えに行く」

ついに来てしまった彰との別れ
麻里亜は、ハンカチ4枚を鞄に入れた。メイクは、しない。
泣いてメイク崩れた自分の顔を見せたくないからだ。

10分後に智と玲子が来た。

「早く!乗って!」
とても慌てた様子の智の隣に久しぶりに見た玲子がいた。
「先輩。お久しぶりです。挨拶は後程」
麻里亜は、急いで後ろの座席に乗った。

病院に着くまで会話はない。焦りと緊張でいっぱいいっぱい。

「柚木さんのご家族ですか?急いでください!」
看護師さんに案内され、急いで病室へ向かう。
彰がいた。もうチューブなどで繋がれて心拍数も低い。

ああ、もう別れが来たのだなと麻里亜は、泣いた。

「彰!」
声をかけても返事がない。麻里亜は、必死をこいて呼びかけた。
自分の友人たちは、みんな幸せに充実した日々を送ってること
新しい職場で充実した日々を送ってること、最近、自分が考案したメニューが小学校の給食メニューに採用されたから
彰にも食べさせたいなど話しかけた。

声かけ続けて数分後、彰が口を開いた。
「まり・・・あ。」
「彰!」
「ありがとう・・・幸せだったよ。もっと・・・いっしょにいたかった」
「私もだよ。彰」

麻里亜は、彰の胸元で泣いた。人前で気にしてる場合じゃない。彰の温もりが僅かに温かいが
少しずつ冷たくなってくるのを感じ、麻里亜は、受け入れたくなかった。
「まりあ・・・ありがとう。ずっと・・・・ずっと・・・・」

愛してると言いかけて、ピーーーーという音が病室に響いた。
麻里亜は、大声で泣いた。
看護師も智も玲子も叔母の志保も泣いた。
持ってきたハンカチを濡らした。何度も名前を呼んだ。
呼べばまた「麻里亜」と呼んでくれる気がしてならなかった。

彰は、天国へ旅立ってしまった。

通夜と葬儀は、親族でひっそりと行った。麻里亜ももちろん参列した。
彰の棺には、麻里亜が作った手作りの青いお守りが入れられた。離れてもずっと繋がってるという
思いだからだ。

葬儀を終えて、智から「ありがとう。彰もずっと幸せだと思うよ。」と声をかけてくれた。
麻里亜も「こちらこそよくしてくださってありがとうございました。」と言った。

葬儀を終えて、自宅へ帰っても喪失感があり、ごはんも喉に通らなかった。
寝室へ入って、メイクを落として、引き出しを開けると、手紙が入ってた。
いつの間に?と思った麻里亜は、見てみると「愛する麻里亜へ」と書かれてた。
彰からだった。

『この手紙を読む頃、僕は、今頃、天国へ旅立ってることだと思います。麻里亜に伝えたい
想いがあるので、手紙に託します。

麻理亜の好きなところ
1よく笑うところ。笑ったらすごくかわいいよ
2料理が上手なところ。麻里亜が作ってくれた白身魚のお味噌汁、おいしかったなぁ。
元気になったらまた食べたい。
3友達思いで優しいところ。友達の愚痴、一つも聞いたことなかった。本当に素敵だったよ。
4思いやりがすごく素敵なところ。麻里亜が作ってくれたお守り、ずっと大事にするね。
5麻理亜の言葉は、魔法。怖がりで臆病な僕をいつも勇気づけてくれた。ありがとう。
6頑張り屋さんなところ。どんなに辛くても絶対に頑張る麻里亜は、素敵。でも無理だけはしないでね。
7ご飯をおいしそうに食べるところ。麻里亜がおいしそうにご飯食べてるの見るだけですごく幸せになれる。
8たまに見せる甘えん坊なところ。寂しいって素直に甘えてくれたときはすごくかわいかったよ。
9なんでもチャレンジするところ。栄養管理士の資格を取るって勉強頑張ってたの知ってるよ。
10お母さんみたいな愛情が深いところ。これ言ったら麻里亜、すねるかもしれないけど、僕は、お母さんが恋しかった時があるんだ。
でも麻里亜の手料理食べたとき、お母さんのような温かさを感じたんだよ。ありがとう。

他にもいっぱいあるけれど、書ききれません。
麻里亜は、ほかにもたくさん魅力的なところがあります。自信を持って胸を張って生きてください。

最後に僕との約束「笑って生きて」は、必ず守ってね。すぐには、無理でも少しずつ前を向いて笑って生きてくれたら
僕はそれでいいんだよ。

麻里亜、ありがとう。愛してるよ。

柚木 彰』

読み終えた麻里亜は、ポタポタと涙があふれた。いつの間に残したんだろう。と思い返すと
あの時、泊まりにきた彰は、麻里亜が風呂に入る前にレターセットをくれないかと言ったことを思い出した。
きっと、自分がお風呂に入ってる間に手紙を書いて、鏡台の引き出しに入れたのだろう。
彰からの最後のメッセージに麻里亜は、泣いた。

そして、引き出しの奥からさらに出てきた。それは、彰が大事にしてた腕時計だ。お父さんの形見だと言ってたのに
私がもらっていいのだろうかと恐縮してるとメモが出てきた。
『この時計は、麻里亜にあげます。お父さんの形見を麻里亜が大事にしてくれると嬉しいです。僕と麻里亜の時間を
刻んだ大事な思い出でもあるし、これを見て僕だと思ってそばにおいてほしい』
と書かれてた。

麻里亜は、スマホ開いて彰の連絡先は、消さないと誓った。
彰とのメールのやりとりもすべて保存した。未練タラタラだと言われても構わない。
彰と過ごしたこの2年は、宝物でもあるからだ。

「ありがとう。彰。私、笑うよ。彰、私の知らないいいところ、ちゃんと見てくれたんだね。」

麻理亜は、布団に入って彰の腕時計を握って「彰、おやすみ」と言った。

3日間、仕事を休んだ麻里亜は、職場へ行くと上司が「おはよう」と声をかけてくれた。
「辛かったね。無理をしなくていいんだよ。」
「いいえ。私は、彼との約束があるので、それを守り続けなければならないんです。」

同僚たちも「大変だったね」「無理しないでね」と声をかけてくれた。
麻里亜は「ありがとうございます。今日からまた頑張ります。」と元気よく言った。
通勤鞄の中は、彰が残してくれた手紙と腕時計が入ってる。


帰宅後、マンションの前に智がいた。
「智さん!」
「麻里亜ちゃん。彰にたくさんの思い出ありがとう。今日、渡したいものがあってきたんだ。」
智は、そういって鞄から麻里亜にあるものを渡した。

「これ、彰が残したものなんだ。麻里亜は、きっと寂しがるからって。」
見せてくれたのは、彰の写真だった。どれも看護師さんが撮影したものだ。
「辛いかもしれない。余計なおせっかいかもしれない。だけど、彰は、麻里亜ちゃんのこと
ずっと心配してたんだ。」
「ありがとうございます。大事にします。私、こんなに愛されたの初めてです。あの、彰が私にって
残してくれた時計、どうしたらいいですか?」
「彰もだよ。麻里亜ちゃんに愛されて幸せだって言ってたよ。時計は、麻里亜ちゃんが持ってあげなよ。
彰が望んでることなら僕は、それがいいと思う。彰だと思ってそばに持っていてあげて。」

智は、警察へ用事があると言って車に乗って行ってしまった。
麻里亜は、彰の写真をアルバムに収めたり、寝室に飾ったりして大事にした。

「知らなかった。こんなに残してくれたなんて。」
そう微笑んだ麻理亜は、自宅へと帰った。

5年後

32歳になった麻里亜は、友達の紹介で伊吹玲央と交際してた。玲央は、笑うと子犬みたいにかわいらしい男性で
麻里亜より5つ下だ。今日は、ある定期健診の日だ。彼から「迎えに来るから待ってて」と言われて
慌てずゆっくりとマンションの下へ行った。

「麻里亜!」
「玲央くん。待った?」
「全然。」

麻里亜のお腹の中には、新しい命が宿ってた。妊娠が分かった時、玲央は、泣いて喜んだ。
「定期健診に毎回ついてこなくたって一人でも大丈夫なのに(笑)」
「ダメだよ!麻里亜だけの体じゃないよ。ちょっとした段差で躓いたり、物にぶつかったりしたらどうするの!」
「心配性なんだから~(笑)」

車の中で麻里亜は、微笑んだ。彰の形見である時計は、肌身離さずずっと持ってる。調子がおかしいときは、修理に出したりしてる。

麻里亜は、彰との約束以上に果たせている気がした。産婦人科で性別が分かるので二人で確認したいと玲央の強い希望があった。
産婦人科の検査で先生が告げた。

「男の子ですね」
「男の子ですか。」
「やった!大きくなったらキャッチボールできる!」

玲央は、子供のように喜んだ。麻里亜は、男の子と聞いて恋人だった彰の生まれ変わりだと内心思った。

「(生まれ変わってまた私に会いに来てくれたのかな)」

産婦人科の帰り、玲央の車の中で麻里亜は玲央に話しかけた。
「この子、きっと私の前の恋人の生まれ変わりだといいな」
「絶対そうだよ。また麻里亜に会いたいと思ったんだよ。僕たちで愛情注いで育てよう。」
「うん!楽しみだな~。」

麻里亜は、生まれ変わってくる彰に会えるのを心待ちにして微笑んだのだった。
麻里亜の鞄の中にある彰の写真は、優しく微笑んでいた。
麻理亜は、ひそかに「麻里亜、また会えたね」

そう聞こえた気がしたのだった。

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