余命2年の王子様
入院7日目

歩くリハビリしている麻里亜は、彰のこと考えていた。
なんの病なのか聞くに聞けない。
聞いて欲しくないことは、誰にでもある。

ぼーっとしてたら、派手に転んだ。
リハビリ室は、他の患者もいるから余計に恥ずかしい。
いや、駅のホームよりマシかもしれない。

『麻里亜ちゃん、大丈夫?』

『はい。宮野さん、ありがとうございます。』

宮野さんは、私が入院する日からお世話になってる看護師さん。
最近、趣味が読書という共通の話題で仲良くなった。

『もしかして、柚木さんのこと考えてた?』

『はぁ?』

宮野さん!何言ってんだ!
と思わず叫びそうになった。

『柚木さんって言ったら、まさかの図星だった?ピュアだね~!若いってすばらしいなぁ。』


いやいや、宮野さん、年は、私と変わらないでしょ。

『若い同士、仲良くていいことよ。リハビリ、無理しないでね!』

宮野さんは、笑いながら去っていった。

ーーーーーーーーーー

部屋に戻ると彰さんは、検査なのか?不在だった。

私は、気づいたら、携帯握りしめて、携帯使用許可の場所まで来ていた。
履歴から『お母さん』の文字を押す。


『もしもし、どうしたの?何か必要なものある?』

3コールで出た母の声は、明るかった。
そして、私は、勇気出して、聞いた。

『ねぇ、お父さんって結局、何の病気で亡くなったの?』

『え?突然、何?』

『教えてよ!お父さんって何の病気で亡くなったの?』

『ちょっ、あんた、どうしたの?病院で何があったの?』


自分でもなんでイライラしてるのかわからなかった。
とにかく知りたい気持ちでいっぱいだった。


『落ち着いて。父さんはね、胃がんだったのよ。あなたには、なるべく明るく前向いて生きてほしいから、話に触れないようにしてたのよ。』

胃がん

それを聞いて、全身の力が抜けた。

『ごめん。ごめんね。お母さん。』

涙が止まらない。安心したのと母に八つ当たりした申し訳なさに涙が出た。


『ねぇ、まさか、麻里亜も胃がんだったの?』

心配する母の声がした。

『ううん。違うよ。大丈夫。安心して』

そう言って、電話を切った瞬間、彰さんの姿が見えた。
まさか、聞かれた?
聞かれたら、尚更、恥ずかしい。

急いで病室に戻ると

『おかえりなさい。麻里亜さん。』

いつも通り、穏やかに笑う彰さんだった。
よかった。母との電話聞かれてなかった。

『検査どうだったの?』

『うん。あまり変わらなかったよ。』

にこりと笑う彰さんは、やっぱり素敵だ。


私は、まだこの気持ちに気づくのは、当分先になりそうだ。


ーーーーーーーーーー

~彰side~

僕は、高校3年で両親を事故で亡くした。
旅行先での出来事で、遊覧船が岩にぶつかって、転覆した。

遺体は、父だけ見つかってない。母だけだった。見つかったのは。

だから、母が身につけてた時計が形見だ。

バイトで稼いで、友達と遊びたいの我慢して、高卒で牛丼屋で働き始めたんだ。
卒業から1年かないや半年。1年半の時、牛丼屋で倒れて、病院で検査したら、病が見つかった。


偶然、麻里亜さんがお母さんに電話してるの聞いて、麻里亜さんのお父さん、胃がんだったのを知ってしまった。


僕も入退院繰り返してきてるけど、胃がんなんだ。って麻里亜さんに伝えたい。
でも言えない。

麻里亜さんの悲しむ顔、見たくないんだ。
だから、しばらくは、知らないフリしてあげるね。


~彰side終了~


ーーーーーーーーーー

あれから私は、リハビリ重ね、歩けるようになった。
彰さんとは、だいぶ仲良くなった。
もうお互い『麻里亜』『彰』と呼び合うようになって、看護師さんなんかキャーキャーして、はしゃいでる。

『あと1週間で退院だね。』

『彰も私がいなくなってもご飯しっかり食べるんだよ』

そのとき、彰の顔が曇った

『うん。ありがとう。』

なんだろう。あまり意味を考えなかった。

14日目の夜


『ねぇ、彰。私が退院したら、会いに来てもいい?』

自分でもなんでそんなこと聞いたかわからない。
彰から返事無い。規則正しい寝息が聞こえた。
よほど検査で疲れたのだろう。
麻里亜も静かに寝た。

ーーーーーーーーーー

今日は、彰のお兄さんが来るらしい。
彰は、ずっとニコニコしてる。

『嬉しい?』

『嬉しいよ。たった1人の家族だもの。』

数分後

『失礼します!柚木彰の兄の智です。』

身長は、170以上ありそうな高身長で、彰によく似た爽やかな顔立ち。

『彰、調子どうだ?りんご買ってきたけど、食えるか?そちらのお嬢さんもどう?』

気さくで優しい方だなぁ。初めは、ちょっと話しかけづらいと思った自分が恥ずかしくなった。

『高橋麻里亜さんだよ。足を怪我して、入院してるんだ。』

『高橋さん、弟がお世話になってます。俺、弁護士やってます。不倫と離婚が専門だけど。』

弁護士さんなんだ。だから、スーツビシッときまっているわけだ。

『彰、良かったなぁ。可愛い話し相手ができて。』

『なっ!』

『仲良いんだろ?』

『よく話すよ。』

仲いいなぁ。麻里亜は、羨ましくみていた。
1人っ子の麻里亜にとって、お兄ちゃんは、憧れの存在だ。

『じゃあ、俺、仕事に戻るな。彰、高橋さんを泣かすなよ』

『泣かせないから、大丈夫!』

そう言って、智さんは、帰っていった。

ーーーーーーーーーー

病室には、私と彰の2人きりになった。
夕飯までは、後1時間以上は、ある。


『兄貴が失礼なこと言ってごめん』

『え?どうしたの?』

彰は、こちらを見て、微笑んだ。

『昔からなんだ。明るくていいやつなのは、わかるけど、すぐ仲良くなれるのは、兄貴の長所なんだ。もし失礼なこと言ってたら、ごめん』


『大丈夫だよ。私も明るくていい人だなって思ってたから。』


これは、嘘じゃない。
お兄さんは彰をさらに明るくしたような爽やかな人で、私も好印象だった。


『それは、よかった。弁護士になってから、忙しくなって、見舞いは、月に3回程度だよ。』

彰は、寂しいのかもしれない。
私以外でこの部屋に入院した子いるかもしれないけど、それは、私みたいに数週間の子が多いかもしれない。

せめて、せめて私だけは、彰の友達でいてあげたい。

『あのさ、彰。私、彰と友達になってもいいよ。』

『え?』

彰が驚いて、固まる。

『私が退院してもたまに会いに来て、話し相手になってあげるよ!だから、友達になろう』

『ありがとう。僕と麻里亜ってもう友達だと思ってたけど、違ったかな?』


すでに友達?え?

今度は、私が驚いて固まる番だ。

『麻里亜が会いに来てくれるなら、大歓迎だよ。僕は、待ってるから』

彰は、笑いながら言った。

その時、明るい声がした。

『何~?もしかしてカップル成立?』

宮野さんだ。いつから聞いてたんだろう。

『宮野さん。いつから聞いてましたか?』

『えーっと『私、彰と友達になってもいいよ』からかな?』

ほぼ全部じゃん!

恥ずかしくなって、穴があったら、入りたくなった。

『柚木さん、よかったですね!可愛いガールフレンドできて♡』

『宮野さん~~~!!!』

私は、恥ずかしくて、夕飯後は、彰の顔、見れなかった。


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