余命2年の王子様
月曜日の朝、スマホを見ると彰から返信が来た。
内容は、〖待ってるよ。〗だった。
今日の帰りに彰に会えるかと思ったら、頑張れる。
私は、〖今日の夕方にくるね。〗と打った。
月曜日なのになんだか胸がドキドキした。
またホームの階段から落ちるんじゃないかとハラハラしたけど、無事に会社についた。
『高橋さん、怪我大丈夫?』
彼は、私の部署の先輩で神谷康介さん。年は、私より2つ上の27歳。
いつも気さくでいい人だ。
と私は、思っている。
『よかったらさ、今日、快気祝いしてあげるよ。もちろん僕のおごりだよ。』
『すみません。今日、病院へ行かなきゃならなくて。』
『え?まだ具合悪いの?』
彼氏が出来たと正直に言おうか迷ったが、正直に言うことにした。
『彼が入院してるんで、今日、お見舞いに。』
『へぇ。高橋さん、彼氏できたんだ。よかったね。』
なんか、嫌味な言い方だなぁ。と思いつつ、麻里亜は、早速仕事にとりかかった。
ーーーーーーーーーー
昼休み
私は、同僚の咲月莉央と一緒に屋上で昼ごはん食べていた。
莉央は、毎日手作り弁当作るくらい料理は、上手い。私も何度かおかずを貰ったことあるが、野菜の肉巻きは、美味しかった。
毎日コンビニ弁当の私とは、大違いだ。
『それで、友人とあれから連絡とってないの?』
『うん。ななみは、謝ってきたけど、返信してない。』
『そっか~。まぁ、落ち着くまで距離置くのも大事だよ。』
私は、コンビニで買ったおむすび弁当を食べながら『うん』と頷いた。
午後は、多数の業務をこなし、気づけば夕方16時30分を過ぎていた。
『すみません。今日は、ちょっと、用事がありますのでお先に失礼します。』
後ろからみんなの『お疲れ様』という声が響いた。
さぁ、急いで病院へ行こう。
バスに乗って、揺られること20分。病院に着いた時には、すでに17時55分だ。
もう面会は、ダメだろうと半分諦めていたその時だった。
待合室に見覚えのある姿を見た。言われなくてもわかる。彰だ。
思わず『彰!』と叫んだ。
彰は、びっくりしながら振り返ったけど、すぐ笑顔になった。
『麻里亜。ずっと待っていたよ』
『ごめんね。仕事、思った以上に長引いて。それより、ずっとここで待っててくれたの?』
『うん。麻里亜が来るのが待ち遠しくって、看護師さんたちに頼んでここで待たせてもらってたんだ。』
どうやらお互いに会えるのを楽しみにしてたようだった。
私も彰も笑顔になって、自販機で水とミルクティーを買って、待合室の椅子で少しおしゃべりさせてもらうことにした。
『がん・・・・転移大丈夫?』
『うん。手術、受けることにしたから大丈夫だよ。2週間後の水曜日に手術受けることにした。早い方がいいだろうって』
2週間後の水曜日、ちょうどお休みもらってる日だ。
彰は、私に思いがけない言葉を投げかけた。
『手術の日、麻里亜、来てくれない?麻里亜が来てくれたら、心強いんだ。』
『え?』
思わずびっくりした。そして、彰は、続ける。
『本当は、僕、弱虫なんだ。麻里亜の前だといつも平気だとか大丈夫って言ってるけど本当はそうじゃない。
手術だって怖くてたまらない。麻里亜が来てくれたら、僕は、絶対頑張れる。ダメかな?』
そんな子犬のようなウルウルした目で見つめないで。
そしたら私、絶対『そばについてあげる』としか言えなくなるよ。
『うん。いいよ。そばについててあげる。』
『本当?ありがとう。頑張るから。少しでも長く生きて麻里亜のそばにいるからね』
私と彰は、抱き合った。今、この時間は、誰もいない。
しばらくの間、私は、彰のぬくもりを感じた。
ーーーーーーーーーー
病院からの帰宅後、私のスマホに2件のメッセージがきていたことに気づく。
2件とも神谷さんからだ。
[電話してもいい?】【ちょっと話したいことがある。】
メッセージを読んで私は、神谷さんに電話をかけた。4コールあたりで彼は出た。
『もしもし?高橋さん、今大丈夫?』
『はい。どうしたんですか?』
『あのさ、2週間後の水曜日、映画見に行かない?今、大ヒットしてるアニメなんだけど。』
2週間後の水曜日は、彰の手術についていなきゃならない日だ。
ダメに決まってる。
恋人が手術でそばにいてほしいって言うのにのんきにほかの男と映画なんか行けるわけない。
『すみませんが、私、その日は、彼の手術の日でどうしてもダメなんです。お気持ちはすごく
嬉しいですが、すみません。』
『そっか。わかったよ。また今度行こう』
それだけ言って切った。なんなんだ。あの人は。
と心の中で毒づいた麻里亜だった。
ーーーーーーーーーー
~神谷康介Side~
僕は、高橋さんの勤務先の部署の先輩だ。
実は、密かに高橋さんのことが好きだった。いつか告白しなきゃ!と思ってたのだが
高橋さんは、駅のホームの階段から落ちて骨折して3週間の入院をした。
お見舞いにももちろん行きたかった。
でも僕の会社ってブラック企業だから、なかなか忙しくて会いに行く時間が取れなくて
気づいたら、高橋さんは、退院して、いつの間にか違う男性(ひと)と付き合ってた。
悔しい!悔しくてたまらない!
だから、僕は、高橋さんに僕の方がいい男だよとアピールするために最初は、食事に
誘ったが、あっさり玉砕。
次は、高橋さんも好きだというアニメの映画の最新作を一緒に見に行くという
いわゆる<映画館デート>で誘ったが、彼の手術でどうしてもダメだと断られた。
こうなったら、高橋さんは、どうしても僕の物にしたい!
僕の想いは、意地でも譲らないのだ。
~神谷康介Side終了~
ーーーーーーーーーー
ある日の金曜日、麻里亜は、神社に来ていた。
来週の彰の手術が成功することと少しでも長く生きてくれるようにと祈りに来ていた。
『どうか彰の手術成功しますように。少しでも長く生きてくれますように』
神社の作法をしっかりして、自宅に帰る。
その途中、『高橋さん』という声に振り返った。
そこには、神谷がいた。
『どうしたんですか?自宅は、反対ですよね?』
『いや、たまたま友人の家に用事あって、偶然に高橋さんの姿が見えたから。
帰り?送っていくよ』
『大丈夫です!もうあと1キロ先なんで』
『遠慮しないで。もう暗くなるよ?』
麻里亜は、なかなか引き下がらない神谷に恐怖を覚えた。
いくら仕事先で知ってるからと言って、一人暮らしの女性の自宅を知られるわけにいかない!
『もう夏になりますし、暗くなるのは、7時すぎですから!ていうかまだ5時ですから』
『いいから!僕の言うこと聞けよ!』
いきなり腕をつかんできた。怖い!誰か!と叫びたいが、なかなか声が出ない。
『好きなんだよ。高橋さん。ずっと前から。なのに違う男と付き合って。この裏切り者!』
『誰かと付き合おうが私の勝手です!離してください!』
『いや、僕と付き合うって言うまでは離さない!』
怖い!怖い!誰か!助けて!
その時だった。
『ちょっと。嫌がってる女性に何してるんだ!』
聞き覚えのあるこの声に麻里亜は顔を見た。
『誰だ?!関係ねぇやつは、ひっこめ!』
『柚木智(ゆずき・さとし)。僕の弟の彼女に嫌がることするなんて
弁護士として許さないよ。会社にこの騒ぎが知られたくなかったら素直に離して立ち去ってけ!』
智は、彰の兄だ。神谷は、舌打ちをして去って行った。
麻里亜は、一気に足の力が抜けた。
『大丈夫?麻里亜ちゃん。怖かったね。偶然、依頼人の家に寄った帰りに君と男がいるの見て
おかしいと思ったんだ。』
『ありがとうございます。怖かったです。』
智さんは、優しく背中をさすってくれた。さすが、彰の兄だ。触り方もいやらしいと感じない。
『家まで送らせてもらっていい?大丈夫。僕は、変なことしないから。』
『大丈夫です。智さんは、信じてますので』
智さんに自宅まで送ってもらった。
『会社にこのことを報告してもいいかな?一応、また繰り返されたら怖いでしょ?』
『はい。ありがとうございます。あの、どうして、私と彰が付き合ってるって知ったんですか?』
『彰が言ってたんだよ。”優しくてかわいい彼女ができた”って。彰にたくさんの幸せな思い出を作ってあげてね。』
そう優しく笑って、智さんは、私の自宅を後にしたのだった。
内容は、〖待ってるよ。〗だった。
今日の帰りに彰に会えるかと思ったら、頑張れる。
私は、〖今日の夕方にくるね。〗と打った。
月曜日なのになんだか胸がドキドキした。
またホームの階段から落ちるんじゃないかとハラハラしたけど、無事に会社についた。
『高橋さん、怪我大丈夫?』
彼は、私の部署の先輩で神谷康介さん。年は、私より2つ上の27歳。
いつも気さくでいい人だ。
と私は、思っている。
『よかったらさ、今日、快気祝いしてあげるよ。もちろん僕のおごりだよ。』
『すみません。今日、病院へ行かなきゃならなくて。』
『え?まだ具合悪いの?』
彼氏が出来たと正直に言おうか迷ったが、正直に言うことにした。
『彼が入院してるんで、今日、お見舞いに。』
『へぇ。高橋さん、彼氏できたんだ。よかったね。』
なんか、嫌味な言い方だなぁ。と思いつつ、麻里亜は、早速仕事にとりかかった。
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昼休み
私は、同僚の咲月莉央と一緒に屋上で昼ごはん食べていた。
莉央は、毎日手作り弁当作るくらい料理は、上手い。私も何度かおかずを貰ったことあるが、野菜の肉巻きは、美味しかった。
毎日コンビニ弁当の私とは、大違いだ。
『それで、友人とあれから連絡とってないの?』
『うん。ななみは、謝ってきたけど、返信してない。』
『そっか~。まぁ、落ち着くまで距離置くのも大事だよ。』
私は、コンビニで買ったおむすび弁当を食べながら『うん』と頷いた。
午後は、多数の業務をこなし、気づけば夕方16時30分を過ぎていた。
『すみません。今日は、ちょっと、用事がありますのでお先に失礼します。』
後ろからみんなの『お疲れ様』という声が響いた。
さぁ、急いで病院へ行こう。
バスに乗って、揺られること20分。病院に着いた時には、すでに17時55分だ。
もう面会は、ダメだろうと半分諦めていたその時だった。
待合室に見覚えのある姿を見た。言われなくてもわかる。彰だ。
思わず『彰!』と叫んだ。
彰は、びっくりしながら振り返ったけど、すぐ笑顔になった。
『麻里亜。ずっと待っていたよ』
『ごめんね。仕事、思った以上に長引いて。それより、ずっとここで待っててくれたの?』
『うん。麻里亜が来るのが待ち遠しくって、看護師さんたちに頼んでここで待たせてもらってたんだ。』
どうやらお互いに会えるのを楽しみにしてたようだった。
私も彰も笑顔になって、自販機で水とミルクティーを買って、待合室の椅子で少しおしゃべりさせてもらうことにした。
『がん・・・・転移大丈夫?』
『うん。手術、受けることにしたから大丈夫だよ。2週間後の水曜日に手術受けることにした。早い方がいいだろうって』
2週間後の水曜日、ちょうどお休みもらってる日だ。
彰は、私に思いがけない言葉を投げかけた。
『手術の日、麻里亜、来てくれない?麻里亜が来てくれたら、心強いんだ。』
『え?』
思わずびっくりした。そして、彰は、続ける。
『本当は、僕、弱虫なんだ。麻里亜の前だといつも平気だとか大丈夫って言ってるけど本当はそうじゃない。
手術だって怖くてたまらない。麻里亜が来てくれたら、僕は、絶対頑張れる。ダメかな?』
そんな子犬のようなウルウルした目で見つめないで。
そしたら私、絶対『そばについてあげる』としか言えなくなるよ。
『うん。いいよ。そばについててあげる。』
『本当?ありがとう。頑張るから。少しでも長く生きて麻里亜のそばにいるからね』
私と彰は、抱き合った。今、この時間は、誰もいない。
しばらくの間、私は、彰のぬくもりを感じた。
ーーーーーーーーーー
病院からの帰宅後、私のスマホに2件のメッセージがきていたことに気づく。
2件とも神谷さんからだ。
[電話してもいい?】【ちょっと話したいことがある。】
メッセージを読んで私は、神谷さんに電話をかけた。4コールあたりで彼は出た。
『もしもし?高橋さん、今大丈夫?』
『はい。どうしたんですか?』
『あのさ、2週間後の水曜日、映画見に行かない?今、大ヒットしてるアニメなんだけど。』
2週間後の水曜日は、彰の手術についていなきゃならない日だ。
ダメに決まってる。
恋人が手術でそばにいてほしいって言うのにのんきにほかの男と映画なんか行けるわけない。
『すみませんが、私、その日は、彼の手術の日でどうしてもダメなんです。お気持ちはすごく
嬉しいですが、すみません。』
『そっか。わかったよ。また今度行こう』
それだけ言って切った。なんなんだ。あの人は。
と心の中で毒づいた麻里亜だった。
ーーーーーーーーーー
~神谷康介Side~
僕は、高橋さんの勤務先の部署の先輩だ。
実は、密かに高橋さんのことが好きだった。いつか告白しなきゃ!と思ってたのだが
高橋さんは、駅のホームの階段から落ちて骨折して3週間の入院をした。
お見舞いにももちろん行きたかった。
でも僕の会社ってブラック企業だから、なかなか忙しくて会いに行く時間が取れなくて
気づいたら、高橋さんは、退院して、いつの間にか違う男性(ひと)と付き合ってた。
悔しい!悔しくてたまらない!
だから、僕は、高橋さんに僕の方がいい男だよとアピールするために最初は、食事に
誘ったが、あっさり玉砕。
次は、高橋さんも好きだというアニメの映画の最新作を一緒に見に行くという
いわゆる<映画館デート>で誘ったが、彼の手術でどうしてもダメだと断られた。
こうなったら、高橋さんは、どうしても僕の物にしたい!
僕の想いは、意地でも譲らないのだ。
~神谷康介Side終了~
ーーーーーーーーーー
ある日の金曜日、麻里亜は、神社に来ていた。
来週の彰の手術が成功することと少しでも長く生きてくれるようにと祈りに来ていた。
『どうか彰の手術成功しますように。少しでも長く生きてくれますように』
神社の作法をしっかりして、自宅に帰る。
その途中、『高橋さん』という声に振り返った。
そこには、神谷がいた。
『どうしたんですか?自宅は、反対ですよね?』
『いや、たまたま友人の家に用事あって、偶然に高橋さんの姿が見えたから。
帰り?送っていくよ』
『大丈夫です!もうあと1キロ先なんで』
『遠慮しないで。もう暗くなるよ?』
麻里亜は、なかなか引き下がらない神谷に恐怖を覚えた。
いくら仕事先で知ってるからと言って、一人暮らしの女性の自宅を知られるわけにいかない!
『もう夏になりますし、暗くなるのは、7時すぎですから!ていうかまだ5時ですから』
『いいから!僕の言うこと聞けよ!』
いきなり腕をつかんできた。怖い!誰か!と叫びたいが、なかなか声が出ない。
『好きなんだよ。高橋さん。ずっと前から。なのに違う男と付き合って。この裏切り者!』
『誰かと付き合おうが私の勝手です!離してください!』
『いや、僕と付き合うって言うまでは離さない!』
怖い!怖い!誰か!助けて!
その時だった。
『ちょっと。嫌がってる女性に何してるんだ!』
聞き覚えのあるこの声に麻里亜は顔を見た。
『誰だ?!関係ねぇやつは、ひっこめ!』
『柚木智(ゆずき・さとし)。僕の弟の彼女に嫌がることするなんて
弁護士として許さないよ。会社にこの騒ぎが知られたくなかったら素直に離して立ち去ってけ!』
智は、彰の兄だ。神谷は、舌打ちをして去って行った。
麻里亜は、一気に足の力が抜けた。
『大丈夫?麻里亜ちゃん。怖かったね。偶然、依頼人の家に寄った帰りに君と男がいるの見て
おかしいと思ったんだ。』
『ありがとうございます。怖かったです。』
智さんは、優しく背中をさすってくれた。さすが、彰の兄だ。触り方もいやらしいと感じない。
『家まで送らせてもらっていい?大丈夫。僕は、変なことしないから。』
『大丈夫です。智さんは、信じてますので』
智さんに自宅まで送ってもらった。
『会社にこのことを報告してもいいかな?一応、また繰り返されたら怖いでしょ?』
『はい。ありがとうございます。あの、どうして、私と彰が付き合ってるって知ったんですか?』
『彰が言ってたんだよ。”優しくてかわいい彼女ができた”って。彰にたくさんの幸せな思い出を作ってあげてね。』
そう優しく笑って、智さんは、私の自宅を後にしたのだった。