余命2年の王子様
彰の手術から1週間、私は、彰と面会することになった。
ちょうど3日前、『麻里亜と話がしたい』と連絡が来たのだ。彰から来るのは、正直、珍しい。

会社へ出勤すると、莉央が『おはよう』と元気にあいさつをした。
私も『おはよう』と返した。

『ねぇ。彼の手術どうだった?』
『成功したよ。今日、面会する予定。』
莉央は、『よかったね!やっぱり、愛の力ってやつ?』とからかってきたが、私は、適当に流した。

朝から女子社員の様子がおかしい。なんかソワソワしてるというか。
莉央が『あ~受付嬢の子がなんかストーカーに悩んでるとかでまた噂になってるのよね。』と教えてくれた。
私は、頭の中で智さんが浮かんだ。あの人、ストーカーに強いっけ?と思ったが、昼休みになったら
会いに行ってみようと思った。


昼休み

『受付嬢の林さん、いる?』

私は、莉央からストーカーに悩んでるという林玲子という子に会いに行った。

『はい。私ですが。』

見た目は、とても清楚で大人しそうな子。清楚系のアイドルグループにいそうなタイプだ。
『林さんってストーカーに悩んでるって聞いて、私、知り合いの弁護士がいるの。』
すると、林さんの顔が輝きだした。

『本当ですか!紹介してもらえますか?話だけでも聞いてほしいです。』
『いいよ。待ってね。メッセージ入れるから。』

するとほかの受付嬢の子がみんな『よかったね!』『高橋さんって弁護士と知り合いだったの?』『カッコいい!』と
騒いだ。
メッセージをして、数分後、さっそく智さんから返事来た。
【わかった!今日の夕方16時が空いてるから、事務所に来てって伝えて。柚木智法律事務所って調べたら
地図も出てくるよ!】
とさっそくOKの返事が来た。

『林さん。今日の夕方16時に空いてるって。』
『わかりました。早引きしてさっそく行きます。』
『念のため、タクシーで行ったほうがいいよ。』
「はい。高橋さん、ありがとうございます!』

林さんは、さっそく上司に早引きの相談をしてOKをもらった。
これであの子の悩みが解決してくれればいいな。

ーーーーーーーーーー

病院前

私は、受付で彰の面会を説明し、彰のいる部屋まで通された。
最近、宮野さん見ないなぁ。どうしたんだろう。オススメの小説、教えたいのに。
まぁ、今は、彰に会いに行こう。彰に聞けば何かわかるだろう。

『失礼しまーす!彰、来たよ』
『麻里亜。待ってたよ!

彰は、読んでた本を閉じた。私は、椅子に座った。
ベッドの脇に私の作ったお守りがある。
なんだか照れ臭いな。

『あのね、麻里亜。今度、1週間だけ退院が決まったんだ。』
『ホント!?よかったね!』
『僕、両親いないし、面倒見てくれる人いないからさ、叔母の家に泊めてもらうんだ。』

おばさんの家に帰るんだ。
麻里亜は、彰に帰る家があることに安心した。

『今度、麻里亜の暇な日でいいから、ちょっと出かけない?映画でもどこでもいいよ。』
『じゃあ、私、彰とうどん食べに行きたい!連れて行ってあげたい場所あるの!』
麻里亜は、自分の大好きな満腹製麺のことを教え、彰も『行ってみたいな』と言ってくれた。
『来週の日曜日でいい?』
『いいよ。日曜日の11時に。』

麻里亜は、彰と待ち合わせの場所と時間を打合せし、ずっと気になってたことを聞いた。

『そういえば、彰。宮野さんって最近、見ないけど、何かあったの?』
『ああ・・・あの人?なんか退職したんだよね。若い男性患者さんに色目使ったり、既婚の先生と不倫関係になったりしたって
看護師さんの間で噂になってるんだけど、真相は、はっきりわからないな。』

宮野さんにそんな一面あったことに麻里亜は、ショックを受けた。
ずっと明るくて、気さくて、いい看護師さんだと思ってたからである。

『彰は、宮野さんから色目使われたりしてない?大丈夫?』

ああ、私、なんてことを聞いてるんだ!と麻里亜は、思った。
彰は『はは』と笑って、『大丈夫だよ。そんなことあったとしても弁護士の兄に訴えますよって言うから。』
と言ってくれた。
そうだ。彰の兄は、弁護士だ。何かあれば兄に訴えれば、兄が黙ってるわけない。

麻里亜は、安心して肩の力が抜けた。

ーーーーーーーーーー
~柚木彰Side~

麻里亜と初めて外でデートすることになって、すごく嬉しい。
麻里亜が好きだといううどん屋さんに連れてってもらえるから、楽しみだな。

宮野さん、本当は、僕にも迫られた。キスをされそうになったことだって2度くらいある。
『なんで彰君ってあの芋女が好きになったの?私の方が大人の色気あっていいよ?看護師だよ。
何かあればすぐ対処できるわよ。』
嫌らしい、ぬっとりした喋り方がすごく気持ち悪かった。

『これ以上、僕に迫ると弁護士の兄に訴えますよ?それに僕は、何をされようが言われようが
麻里亜が好きなんです。正直言って、あなたよりずっとずっと魅力的です。
ナースコール押すされたくなかったら、弁護士に訴えられたくなかったらさっさと立ち去ってください。』

そう言うと、宮野さんは、僕をにらんで去って行った。
それ以来だ。宮野さん見かけなくなったの。
逆上されたときのための保険として兄貴に事の顛末を話した。
こういう時、兄が弁護士でよかったなと改めて思った。

麻里亜を不安にしたくないから、ずっと黙ってたけど、宮野さんと親しかった麻里亜が聞いてきたから
あえて『大丈夫だよ。そんなことあったとしても弁護士の兄に訴えますよって言うから』と小さな嘘をついた。
麻里亜は、安心して、ホッとした。
僕は、優しく麻里亜の頭を撫でた。

~柚木彰Side終了~

ーーーーーーーーーー

麻里亜は、宮野さんの裏の顔を知ってしまい、落ち込んだ。
もしも彰にも迫ってたとしたらゾッとする。
もしかしたら裏で私のこと『芋女』とか陰口叩いてたりしてたのかなと思うと、涙が出た。
帰りのバスの心地よい揺れで少し眠った。

目を覚ました麻里亜は、気づいたら、最寄りより3駅離れてしまった。
慌ててバスを降りた。
やってしまった。反対側のバスの時刻は、次は、30分後に来る。
まぁ交通の状況で送れるから、30分以上待つことにした。

『はぁ~。私ってなんで、美人じゃないんだろう。』

『そんなことないよ』

ビクッとした。誰?と見渡したら、知ってる顔がいた。
『智さん?どうしたんですか?』
『いや、今から警察署へ行くんだ。どうしたの?まさか降りる予定のバス停を過ぎちゃってここにいるって
感じ?」

悔しいが当たってる。

『そうなんです。』
『ははは。じゃあ、自宅まで送ってあげるよ。車に乗って』
『申し訳ないです。』
『いいって。』

お言葉に甘えて、智さんの車の助手席に乗った。

『そういえば、林さんって子に会えましたか?』
私は、もう一つ心配事を聞いた。
『ああ、会ったよ。一緒に警察へ相談して、被害届け出したから。今、警察が彼女の自宅周辺を
警備強化してくれてる』
『よかった。』

私は、よかったと安心した。このまま、少しでも穏やかな日々が戻ってくればいいなと思った。

『彰、一時退院するんですけど、智さんの自宅じゃないんですね?』
『ああ、僕は、弁護士だから、仕事忙しくて、彰の面倒見てる時間があまりないから。
もしも彰の体調に異変が起こったら、すぐ救急車も呼ばなきゃならないから。
だから父方のお姉さんの家に預けてもらうんだ。』

そっか、智さんは、一流弁護士だ。忙しいのにわざわざ私を自宅まで送ってもらって
申し訳ない。

自宅へ着いた。

『ありがとうございました。』
私は、深く深く頭を下げた。
『いいよ。大変だったね。ゆっくり休んでね!僕は、今から警察署へ行って書類提出したりしなきゃだから。』
『はい、ありがとうございました。気を付けて。』

智さんは、笑顔でそのまま警察署へ車を走らせた。




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