捨てられた建築デザイナーは秘密を抱えた天才建築家に愛される
「コーヒーでいいか? ミルクと砂糖はないけれど」
「は、はい」
 段ボール、書類、空いた本棚。
 部屋は片付けている最中のように見えた。

「適当に座れ。これタオル」
「ありがとうございます」
 半分書類に埋まったソファーに座ると、テーブルの上の「建築基準法」の本が由紀の目に入った。
 折りたたまれた大きな紙、ビルの模型、床の見本だろうか、見慣れたものが置かれた部屋。
 
「建築……事務所?」
「あぁ、よくわかったな」
 コーヒーを手渡された由紀は、その温かさに涙が出てきてしまった。

「見ての通り片付け中で寝る場所もないけれど、雨風がしのげるだけマシだろ?」
 なぜか男性から手渡された鍵。

「え? あの」
「明日の夕方まで来ないから。鍵は外のポストに入れておいてくれ」
「えっ?」
 そのまま扉から出て行ってしまう男性に由紀は戸惑う。

 ……ここに泊まっていいってこと……?
 
 一人になった由紀は部屋の中をグルッと見渡した。
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