捨てられた建築デザイナーは秘密を抱えた天才建築家に愛される
「……加藤建築設計事務所……?」
 奥のテーブルの上には写真立てが置いてある。
 この建物の前だろうか?
 加藤建築設計事務所の看板の前で撮られた家族写真だ。

「この小学生くらいの子がさっきの人……?」
 なんとなく面影がある気がする。
 おじいさんの建築事務所の片付け中……?

「これ、リッカがデザインしたオフィスビル!」
 家族写真の横に置かれていた雑誌は数年前のもの。
 ドイツ語だろうか?
 由紀は思わず雑誌を手に取った。

「すごい! 私が持っている雑誌にはこんなにたくさん写真は載っていないのに」
 もちろん数年前の雑誌も2冊持っている。
 閲覧用と保存用に。

「あ、この写真は見たことがあるけれど……ここってこうなっていたんだ」
 由紀は夢中でページを捲った。
 文字は読めないけれど、写真を見ているだけで新しい発見がある。

「……写真撮ってもいいかな」
 由紀はスマホで雑誌を撮影させてもらった。
 表紙と、リッカの特集4ページを。
 雑誌を元の場所に戻した由紀はソファーに座りながらスマホに映したリッカのページを眺めた。
 
『今、どこ?』
 ペロンと音を立てながら届いた春馬からのメッセージ。
 
「ははっ、あれから三時間もたっているのに、今更?」
 由紀は返事をする気にはなれず、リッカのページを眺めながら眠りについた。
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