捨てられた建築デザイナーは秘密を抱えた天才建築家に愛される
「えー、みんなも知っての通り、宮崎くんは先日、テンコアーバンデザイン主催のコンペで見事に銀賞に選ばれた優秀な社員だ。私の娘、美香との結婚も決まった彼を部長とした新しい部署を作ることになった。コンペ参加をメインに、我が社の広報も担う新しい部署として……」
 社長の話はまだまだ続きそうだが、私の聞き間違いでなければ、社長は春馬のことを「美香との結婚が決まった彼」と言わなかっただろうか?
 結婚?
 春馬が?
 勘違いでなければ、昨日マンションにいたハイヒールの女性は「ミカ」ではなかっただろうか?

 つまり、そういうこと。
 社長とゴルフに行っていたのも、飲み会が多かったのも、そして昨日マンションにいた女性も。
 いつから決まっていたのだろうか?
 社内コンペ?
 それとも銀賞?

 社長がエントランスの部分を気に入ってくれたと春馬は言っていた。
 手伝わなければよかった。
 スケッチブックなんて見せなければよかった。
 
「……由紀、」
 そっと背中に触れてくれる菜々美の手が温かい。
 由紀は溢れ出る涙を隠すことができなかった。

「え、なんで? 小林さんと付き合っていたんじゃないの?」
「乗り換えかよ」
「え、ひどくない?」
 私と春馬が同棲していることを知っている同じ課の人たちの声が聞こえてくる。
 
「結婚式は社員全員を招待して行うことにした。ぜひみんな来てくれたまえ」
 結婚式?
 誰と誰の?
 私は何を聞かされているの?

「あぁ、そうだ。坂下部長、これを」
「え、なぜです?」
 社長から書類を渡された部長は目を見開いた。

「小林由紀くんはどこかね?」
「は、はい。私です」
 突然社長に名前を呼ばれた由紀はあわてて涙を拭き、手を上げる。

「君は本日でクビだ。今すぐ出て行きなさい」
 社長の冷たい言葉に、由紀は一瞬何を言われたのかわからなかった。
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