捨てられた建築デザイナーは秘密を抱えた天才建築家に愛される
 ……ドイツ語?
 「こんにちは」がグーテンタークだった気がするけれど、グーテンモルゲン?
 仕事の電話ならお邪魔しちゃいけない。
 由紀はペコリとお辞儀をすると、貸してもらう部屋へと戻った。

 スマホを取り出し、グーテンモルゲンとカタカナで打ってみる。

「やっぱりドイツ語だ」
 律さんはドイツの仕事をしているってこと?
 ドイツの建築家?
 だからドイツの雑誌があったってこと?
 
 もしかしてリッカと知り合いかな。
 ……さすがにそんなウマい話はないか。
 
 由紀は少ない荷物をスーツケースから出し、部屋のクローゼットに片付けた。
 リッカの雑誌の保管用はもちろん日があたらないところ、もう1冊はいつでも閲覧できるように本棚に並べる。
 だが、あっという間に荷物が片付いてしまい、すぐにやることがなくなってしまった。

「入るぞ」
 ノックの音とともに、扉が開く。

「説明中に悪かったな」
「いいえ。お仕事の時間中なのにすみません」
 由紀は眺めていた雑誌をパタンと閉じた。
 もちろん最近ずっと持ち歩いているリッカの商業施設がついた雑誌だ。

「買い物が先か? 事務所に雑誌を取りに行くのが先か?」
「……ご迷惑でなければ、雑誌で……」
 事務所ではなく、雑誌を指定する由紀を律が笑う。
 事務所に行き、明日からの仕事内容を聞いたあと由紀は雑誌を受け取った。

「たぶんこの辺にも他の雑誌があると思うから、見つけたら持って行っていいぞ」
「いいんですか!」
 由紀は思わず前のめりで答える。
 リッカの雑誌がもらえるなんて幸せすぎる。
 今朝ポストに入れたばかりの事務所の鍵を再び受け取った由紀は「がんばって片付けます!」と意気込んだ。
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