捨てられた建築デザイナーは秘密を抱えた天才建築家に愛される
 タクシーで再開発される駅までは十分程度。

「あの茶色の建物から、向こうの交差点までが再開発だな」
 律はスマホに表示した募集要項を見ながら、由紀に再開発の範囲を教えてくれた。

「こっちはこの交差点から駅の向こうまで」
 夕暮れの街は駅に向かう人がたくさん歩いている。
 結構利用者は多そうだ。
 ベビーカー、お年寄り、あ、自転車も多い。
 駐輪場を準備した方がよさそうだ。
 キョロキョロとする由紀がぶつからないように律はグイッと手を引く。

「歩くの下手だな」
「そ、そんなことは」
 ぶつからないように手を繋いでおくと言われた由紀は真っ赤な顔になった。
 律にとってはそんなに意味がないことだろう。
 でも好きな人に手を握られた私の心は跳ね上がるに決まっている。
 
「乗り換えの動線も考えないとな、意外と駅裏の方が人が多いな」
 こっちがビジネス街かと言いながら歩いて行く律の肩や横顔が気になりすぎる。
 ちゃんと下見をしないといけないのに。

「この交差点までだな」
 立ち止まった律は由紀の手を離し、スマホを操作する。
 手が離れて寂しいなんて中学生みたいな発想!
 由紀は自分の思考に自分でツッコみを入れた。

「向こう側はベビーカーの人が結構いましたが、こちら側はいませんね」
「あぁ、こっちはほとんどオフィスだな」
「律さん、北はこっちでしょうか?」
 由紀は北を確認するために、律のスマホを覗き込んだ。

「隣のあのビルは残りますよね?」
「そうだな、そうすると夕日の影が……」
 オフィスビルの影ができる位置や眩しさなども考慮しなくてはいけないと律にアドバイスされた由紀はカバンから手帳を取り出しメモをする。

「……由紀?」
 聞き覚えのある声に思わず振り返ってしまった由紀は自分の行動を後悔した。
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